UI/UXをはじめ、デザイナーとしてクライアントの組織内に入り、解決策を探っていくという長谷川恭久さん。「デザインだけを変えても何も変わらない」と言うが、企業側はデザイナーに何を期待すればいいのか、率直に伺った。
見た目だけを変えても、内面が同じなら劇的には変わらない
クライアントの企業さんは「デザインを変えたら何かがよくなるんじゃないか」という考えなんだろうと思うのですが。実際のところどうなんですか。
変わらないですよ。
ずいぶんバッサリですね!
例えば、嫌な奴がいきなり髪型やメイクや服装を変えたとしても、性格が変わらなければ嫌な奴のままですよ。もしかしたら一瞬は「いいね」と思われるかもしれないけど、それだけ。組織やプロダクトが変わらないと、日本のユーザーは賢いので、いくらお化粧を上手に施してもいずればれます。
「日本のユーザー」は賢いんですか?
エデルマンというPR企業の信頼度調査によると、日本人の企業やメディアへの信頼度はとても低く、調査対象28か国中ワースト5に入る。つまり、企業が出す情報を信用していない。だから価格.comといった口コミサイトで、本当のことを言う人を参考にするわけです。一企業が表層を変えたところで影響は少ないでしょうね。
世の中には、プロダクトはいいのに見栄えが悪い、というケースがあるんじゃないかと思うんですが……。
うーん、すごくまれじゃないでしょうか。例えば、企業側の視点で「いいものなのに知られていない」と思っていても、ただユーザーニーズと合っていないだけだった、みたいなことは多い。ゼロではないと思うけど、かなり少ないという見解はあります。
クライアントも覚悟を持って向き合ってほしい
デザインを変えるだけ、という施策はダメということですよね。
基本的には、ユーザーの動機や文脈まで知らないといけないと思っています。ただ、あらかじめ言っておくと、「中身はそのままでいいから見た目だけをよくしてほしい」というオーダーも悪いわけではないです、「中身から変えないと目的達成には至らないかもしれない」という経験に基づいて、割り切っているのであれば。
お化粧をしても人柄までは変えられないと……。
UXという言葉が夢物語みたいに、魔法みたいに捉えられている側面があると思います。「それさえすれば何かが叶う」といったイメージ。
何か勘違いしているケースが多いってことなんですね。
そう、魔法ではないんですよ。それをわかってもらうために「デザインを変えても意味ない」と、あえて強く言っている側面もあります。でも、発注側もそれくらいの覚悟で、ユーザーの体験を改善するために考え抜きたいという姿勢がなければ、損をするんじゃないかなと。
効果を出したいのであれば、リソースを割くなどしっかりと向き合う覚悟が必要なんですね。
本当は何がしたいか考える
企業がUI/UXデザイナーさんに発注するとして、間違えやすいポイントは何ですか?
先ほどと重複しますが、「デザインを改善すればすべてがよくなる」という想いには注意した方がいい。実際には、売上をあげたい、顧客満足度を上げたい、といった本来の目的があるはずなんです。
具体的に、どんなケースがあるんでしょう?
例えば、「こんなニュースサイトを作りたいです」というオーダー。実際に聞いてみると、運用がままならない、カッコいいデザインができても同じトンマナで素材を増やせるデザイナーがいない、CMSがあってもWebサイト以外のIoTやソーシャルメディアに対応できない、どういうユーザーに何をさせたいのかといった目的が明確になっていないなどなど。結局「ニュースサイトを作りたい」だけでは、やることも決まらないんですよね。
本当は何がしたいのか、という言語化ができていないからそうなるってことですよね。ブランディングがしたいのか、収益をあげたいのか……。
そういうところにも踏み込んで提案をすることもありますが、「UXデザイナーの仕事ではない」と考える人もいるでしょうね。良くも悪くも「デザイナー」という肩書きには成果物を作り上げるという仕事を結びついていることがあるので。
何かを作るときには、しっかりと原点に立ち返って「何がしたいか」を明らかにした方がいい。さらに「予算」を明確にして、UXデザイナーなどに発注する。その際、「デザインの力ですべてが改善される」と考えるのは危険。「何がしたいか」の部分を忘れずに取り組みたい。次回は、理想的な発注の仕方や、避けて通れないクライアント企業内の人間関係について語っていただく。
長谷川恭久さん
Webサイトやアプリの設計や運用のサポートに携わるデザイナー/コンサルタント。日本各地でデザインに関する様々なトピックを扱った講演やワークショップを行っている。著書に『Experience Points』『Web Designer 2.0』など。
栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも