見込み客を育てるマーケティングオートメーション

第2回 見込み客の検討度合いを高めるリードナーチャリングの重要性

顧客のニーズに丁寧に応える「マーケティングオートメーション」。適切な施策を打つことで、顧客の検討度合いを恣意的に高めていくことを「リードナーチャリング」と呼ぶ。その重要性と具体例を、アドビが提供するマーケティングオートメーション製品「Marketo Engage」の製品担当である虻川稜太さんに教えてもらった。

マーケティング部門と営業部門の連携が成功の秘訣
栃尾

前回の話で、マーケティングオートメーション(以下、MA)は、マーケティングと営業の間を埋めるようなイメージを持ちました。

虻川

そうですね。認知の獲得から成約までのプロセスがとても大事です。そのプロセスを分解して最適化していきます。また、マーケティングと営業の間を埋める上で、部門同士の連携がとても重要になります。

栃尾

マーケティング部門と営業部門の連携ですか。「人同士」ということですよね。

虻川

はい、その部分がとても大事です。同時に、人と人なので難しい部分でもあります。例えば、マーケティング部門がMAを使って集めた顧客リストを営業に提供したとします。ところが、検討度合いの低い人ばかりだと成約に結びつきにくくなり、営業部門の不満が増えます。逆に、営業が新規開拓ばかりしていると、クロージングに労力を割けなくなり、顧客リストを提供しているマーケティング部門の不満になるんです。

栃尾

なるほど……。お互いが自分の部門だけを見ていると成り立たないですね。

虻川

マーケティング部門のKPIを顧客リストの獲得だけにしたり、営業部門が短期的な新規開拓だけを追いかけてしまったりすると、手段が目的化してしまいます。ですからご相談いただいた企業様には「連携が大事」だと最初に強く言いますね。セクショナリズムを脇に置いておいて、各部門がひとつのビジネスゴールに向かって広い視野を持ってもらうことが大事だと思っています。

これまで捨てていた顧客情報を活かす
栃尾

リードナーチャリングの重要性についてもう少し知りたいです。具体的な例で教えていただけますか。

虻川

例えば、展示会でお客様の情報を獲得したとします。そのうち、具体的に検討してくれているのはだいたい10%くらいと考えられます。6~7割は、興味はあるもののすぐに買えるわけではない人たちでしょう。

栃尾

そうですね。「今すぐに買うつもりはないけど、情報だけは知りたい」といった方ですよね。

虻川

MAツールがないと、その6~7割をその場で捨ててしまうことになります。でも、長期にわたって継続的に情報を提供していればどこかのタイミングで検討してくれるかもしれませんよね。つまり、リードナーチャリングとは「継続する」ことが大事で、そうすることで成約や購買を獲得できる可能性が高まります。一度獲得した顧客を大切に囲い込むことができれば、新しくリードを獲得するためのコストがかからないので、大事な資産と考えられます。ここをないがしろにしてしまうと、大きな穴の開いたざるに一生懸命に水を注いでいるようなものなのです。

栃尾

なるほど……。確かに、1回では忘れてしまうけど、何度も見ているうちに検討するようになった商品はたくさんある気がします。

虻川

お客様の気持ちを前に進めていただくために、1回きりの接点では難しいケースが多いんですね。「リードナーチャリング」と言葉にすると難しいですが、要は「忘れずに自社のことを覚えておいてもらうコミュニケーション」なんです。

栃尾

今まで捨てざるを得なかった情報が活かせるということですね。

虻川

特にBtoBの場合はお客様の数が多くないので、ひとつひとつの顧客情報を大事に育てていく発想がとても大切だと思います。

インサイドセールスの重要性が高まっている
栃尾

顧客は営業の人と対面しないうちから、少しずつ検討を進めているのですね。

虻川

「対面しない」という側面で言うと、直接対面しない「インサイドセールス」の役割も増えています。インサイドセールスとは、訪問などの対面営業をしない内勤による営業活動のことを指しますが、外勤営業の成約獲得を最大化するようなサポート的な役割と、これまで外勤営業をしていた人がオンラインセールスをするようになった、という二つのパターンに分かれます。

栃尾

リモートワークが増えて、区別しづらくなったのですね。新しい役割としては、前者のインサイドセールスの方でしょうか。

虻川

そうなんです。検討を進めてもらって確度を高める施策は、成約直前の最後の一押しと別で扱うと効率的だという考え方です。気持ちや信頼を高めるインサイドセールスと、高まった気持ちをしっかりとゴールまで導くことの分業化です。また、インターネットの普及により、お客様と「対面で会う」ことのハードルが年々高まってきています。そのため、電話やメールなどで「お困りごと」の相談を受け、生の声を拾い上げる必要性が出てきますね。

栃尾

理屈はわかるのですが……。一方で、自分が顧客だったら、親身になって相談に乗ってくれたインサイドセールスの方がいるのに、「ご注文はこちらの担当者で」と違う人に回されたら少し抵抗があるかもしれません。

虻川

もちろん、そういう側面もあります。売り上げが大きかったり、継続の可能性が高いお客様に対しては、同じ担当者がフォローする、という体制もあるといいですね。そのあたりは柔軟に対応できるとよいと思います。

栃尾

インサイドセールスの効率化も、MAでできるのですか?

虻川

効率化する機能としては、1日に50通、100通と多くのお客様にメールを送るパターンです。テンプレートを用意しておいて顧客の属性や状況によって出し分け配信をしたり、顧客の行動履歴からスコアリングすることで優先順位を付けたりできます。検討度合いが低いお客様に対するステップ型のシナリオメールなど、人間がやっていたことを速めるだけでなく、デジタルテクノロジーがないとできないことがあります。また、インサイドセールスを通して聞いたお客様の課題に対して、最適なコンテンツを、メールを通じて共有していくという使い方もありますね。もちろん、アクションに対する反応をデータ化することもできるので、メール配信量が多すぎるとか、お客様の課題に対して最適なコンテンツをお届けできているか、といった効果測定もできます。

MAを導入するだけでなく、部門間が連携して協力したり、マーケ部門と営業部門の間を埋めるインサイドセールスの存在も重要だという。さまざまなステップで、顧客を取りこぼさない工夫が大切だ。次回は、MA導入がトリガーとなり成功した事例をお伺いしていく。

虻川 稜太さん
アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングスペシャリスト
新卒で入社した精密機器メーカーで放送機器のプリセールス・営業に従事した後、2017年に当時の株式会社マルケトに入社。インサイドセールスとして年間200件以上の商談創出に貢献。現在はMarketo Engageを中心とした製品におけるデジタルマーケティングならびにフィールドマーケティングに従事。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも