見込み客を育てるマーケティングオートメーション

第3回 MAを導入して有料会員が激増したサクセスケース

マーケティングオートメーションの基本や考え方を第1~2回でお伺いしてきた。第3回は、MA導入により、数字でわかる効果のあった企業の事例を教えていただく。今回も、マーケティングオートメーション製品「Marketo Engage」の製品担当、虻川稜太さんにお聞きした。

営業マンに直接的なメリットがある仕組みができた
栃尾

これまで、マーケティングオートメーション(以下、MA)の概要をお伺いしてきましたが、今度は具体的な事例をいくつか教えていただけますでしょうか。

虻川

例えば、クラウド版のセキュリティソフトを販売している会社さんの例では、インサイドセールスのアプローチ後にアポイントまで結びついた件数が3倍になったケースがあります。

栃尾

3倍……。その数字はインパクトがありますね!

虻川

MAを導入したことで、過去に商談まで進んだが失注してしまったお客様が再度Webサイトを見に来ている、というようなことが把握できるようになったんです。例えば、以前の予算では買えなかったものの、来期の予算取りの際にまた検討してくださるようなケースですね。

栃尾

なるほど。新規のお客様より確度が高い人が、もう一度見込み客のリストに載るんですね。

虻川

そうなんです。それまでは、SFAやCRMツールに顧客情報や商談情報を蓄積する機能はあったものの、営業の人は目の前の仕事に忙しく、どうしても貴重な顧客情報の入力がおろそかになりがちでした。ところが、たとえ失注してしまった情報も面倒くさがらずに入力した人がいたおかげで、もう一度アプローチができるタイミングをMAツールが教えてくれたので売上成績が上がったという成功体験が営業部門内でできた。

栃尾

それはいい循環ですね! 確かに、情報入力してもメリットがないのであれば、なかなかやる人はいないでしょうね。

虻川

それまで、現場の人にとっては入力しても特に良いことがなかったんです。ところが、CRMに情報を蓄積することが営業成績アップに直結するとわかると、情報入力が各段に増えます。

栃尾

よいことづくめですね。

虻川

営業マンにメリットがある仕組みを作ることで、貴重な情報の入力が促進される。これにより、経営サイドも生きたデータを分析することができるので、経営戦略が断然立てやすくなりますね。

カード登録のボトルネックを見つけて会員数アップ
栃尾

BtoCのケースでもありますか?

虻川

BtoCの事例として、とあるオンライン学習サービス事業の事例を紹介しますね。無料会員から、有料会員になるステップが大きく改善したケースです。

栃尾

無料会員から有料会員への移行、悩んでいる企業さんは多いでしょうね。

虻川

無料会員や有料会員の人数はわかっていたのですが、詳細を追えていなかったんですね。ひとつひとつのステップで細かく分解していくと、有料会員に登録する気持ちがあるのに、カード情報入力画面で止まり、そこで離脱してしまっている人たちがかなりの人数いたんです。

栃尾

それはもったいない……!!

虻川

例えば、電車の中でスマホを使って入力していて「クレジットカード情報は自宅に戻ってから入力しよう」と思うケースは多いと思います。電車の中だと壁に目があるようなものですから、重要情報をさらすリスクは負いたくない。でも、そのまま帰宅したら、すっかり忘れてしまったりするんですね。

栃尾

すごく身に覚えがあります。

虻川

そういうお客様に対して、「クレジットカードの登録をお忘れではないですか」といったメールや「クレジットカードを登録しても、1か月間は無料で使えます」といったオファーを送るようにしたところ、途中で止まってしまっていた方のうち2割の有料会員化に成功しました。

栃尾

まさに「ボトルネックを解消した」という好事例ですね!

虻川

その後は、同じようなケースをMAのシナリオに登録することで、MAが漏らさず検知して、自動的にメールが送られるようにしました。

栃尾

成功ケースを自動化できるのは、とても便利ですね。ところで、ボトルネックはMAツールを入れればすぐに見つかるものなのでしょうか?

虻川

そんなに簡単ではないですね(笑)。まずはしっかりとカスタマージャーニーを設計して、ボトルネックを可視化できる準備をしました。落とし穴を見つけさえすれば、その後の施策はMAを使って自動でできます。

目的を定めて既存データを分析し、ボトルネックを見つける
栃尾

MAを使うと、蓄積したデータをどのように活用していけるのでしょうか。

虻川

溜まっているデータにもよりますが、やみくもにデータをいじってもよいことはありません。定量的な視点のみならず、定性的な情報で仮説を立てて定性と定量の掛け算発想で分析していきます。

栃尾

狙いを定めてから深掘りしていくんですね。

虻川

先ほどのオンライン教育サービスの場合は、社内のエンジニアやマーケティング担当者と一緒に「自分がお客さんなら」という立場に立って顧客のステージをいくつも洗い出しました。さらに「そのステージに何人ずつ留まっているか」を定量的にプロットしていったんです。

栃尾

そこで、人数が大きく溜まっているボトルネックポイントを発見したんですね。

虻川

そうです。すべて完璧にスムーズに進んでいるということはほぼあり得ないと思うので、必ずどこかにボトルネックがあるだろうと考えていきます。

MAツールを導入することで、データ入力が促進されるのは、マーケティングと営業の連携がうまくいって好循環が起きたからこそ。また、ボトルネックの解消も、直接的な成果につながりやすい。最終回となる次回は、導入する際の注意点などをお伺いしていく。

虻川 稜太さん
アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングスペシャリスト
新卒で入社した精密機器メーカーで放送機器のプリセールス・営業に従事した後、2017年に当時の株式会社マルケトに入社。インサイドセールスとして年間200件以上の商談創出に貢献。現在はMarketo Engageを中心とした製品におけるデジタルマーケティングならびにフィールドマーケティングに従事。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも