クラファン・マーケティングのススメ

第1回 資金のある会社でもクラウドファンディングを使うべき理由

一般の人たちから資金調達をする仕組み「クラウドファンディング」。最近は、資金が潤沢にありそうな企業でも、クラウドファンディングをするケースが増えている。これまでに数々のクラウドファンディングのアドバイスをしてすべて成功させてきた ぺー さんに、そのメリットや成功の法則を聞いた。1回目は、企業がクラウドファンディングをする意味について伺った。

会社に資金があってもあえてクラファンを使う意味とは?
栃尾

資金に困っていないような企業がクラウドファンディング(以下、クラファン)を使うケースが増えているように感じます。資金調達とは別の側面で、クラファンを使う意味が生まれているのでしょうか?

ぺー

そうですね。基本的にクラファンを使う目的には次のようなものがあります。(スライドを見せて)「1.資金調達」「2.在庫リスクの軽減」「3.ECサイトとしての活用」「4.費用不要のマーケティング調査」「5.テストマーケティング」「6.プロモーション、認知拡大」「7.盛り上がりの可視化」「8.コミュニティ醸成(組織化)」です。その中で、企業が事業の一環として取り組む場合には、6~8のケースが多いのではないかと。

栃尾

なるほど。それぞれについて教えてもらってもいいですか?

ぺー

まず、「6.プロモーション、認知拡大」ですね。Web広告などを出すと、100万円、1000万円とかはすぐに消えてしまいます。クラファンなら、手数料が支援額の20%弱くらいでクラファンのサイトに載せることができ、今までアプローチできていなかった顧客にもリーチできる。人気が出てうまくけば、「注目のプロジェクト」とサイトが宣伝をしてくれたり、ニュース性が高ければ他のメディアに掲載してもらえたりするなど波及的なPR効果も期待できます。

栃尾

ただ単に「発売します」より、話題性が増して、多くの人に知られる確率が高まるんですね。

ペー

そうですね。次に「7.盛り上がりの可視化」。これは、大企業には最も有効だと思っています。通常通りに商品を販売しても、全国にチャネルが広がっている店頭販売はリアルタイムに売上を知ることってあまりできない。かつ、あくまで内部情報なので、リアルな数値を公開することはまずしないですよね。つまり、どれだけ反響があるのかを世の中に知ってもらうことができないということ。
ところが、クラファンはそもそもWebに支援額が出ているわけです。リアルタイムに人数と支援金額が増えていくので、支援者にもひと目で盛り上がりが伝わりますし、何より社内へのレポートやアピールにも使えちゃうので、とても便利なんです(笑)。

栃尾

リアルタイムでわかるって、他にあまりないんですね。次のコミュニティに関してはいかがですか。

ペー

「8.コミュニティ醸成(組織化)」ですね。クラファンは、支援した人と直接つながりが持てるのが大きなメリット。活動報告というトピックスやレポートを配信する機能があり、メールで支援者にプッシュ通知してくれます。プロモーションコストをかけずにメルマガ会員を手に入れられる感覚です。何らかのプロダクトに、お金を出すほど思い入れを持ってくれる人たちは、最重要顧客と言えます。クラファンの期間中はさることながら、クラファンが終わった後も継続してつながりを維持して、次の企画のプロモーションに活用することができます。

栃尾

通常の顧客との違いはあるんでしょうか?

ペー

通常の物販だと商品を売る側と買う側という単純な図式になりますが、クラファンの場合はプロジェクト成功という目標に向かい、共に進む「仲間」として捉えることができると思っています。運命共同体的なファンベース発想ですね。活動報告なども、一緒にコンテンツやプロダクトを作っていく感覚を演出していったほうがいいんです。

達成するかゼロかの「All or Nothing」のほうが低リスク
栃尾

だいたいその3つなんですね?

ぺー

もちろん時には「1.資金調達」という面もあります。大企業でも部門ごとに予算や採算を決められていたりすると、いつも潤沢に資金があるわけでない。リスクを最小限に抑える意味でも「人気がなかったらやめます」と決めて、最初から撤退も視野に入れたチャレンジができるメリットもありますね。製品をつくらなければ在庫リスクもない。もし人気がなくてやめることにした場合でもコストは汗をかいた担当者の人件費だけで抑えることも可能です。

栃尾

資金が集まらなかったら、やらなくてもいいんですか?

ぺー

「All or Nothing」というタイプを選べば、目標額に達しない場合はお金をもらえない代わりに何もしなくていい。手数料もかかりません。支援者にとっては、成功した時にだけリターンが受け取れます。もうひとつは「All in」というタイプで、目標金額を達成しなくてもお金を受け取れます。極端な話、ひとりでも支援者者がいれば、プロジェクトやリターンを履行する義務が発生します。

栃尾

「All in」で支援額が少なかったら大変ですね。

ぺー

そうなんです、実は、必ずお金が手に入るけどリターンの履行義務が発生する「All in」の方がリスクは大きいとも言えます。「All or Nothing」の方は、達成しなければお金が入らないけど、達成しない場合のリターンの履行義務はないのでその分リスクは少ないんです。また、ゲーム感があり、目標に向かって支援者をモチベートしやすいというメリットも。集まった金額にかかわらず必ず実施するのであれば「All in」、お金がなければそもそも履行できないとか、最低発注量が生じてしまう製品や、「世間に問いたい」といったテーマであれば、「All or Nothing」のほうがいいと思います。だから、個人的には「All or Nothing」の方式をうまく使ってどんどんクラウドファンディングにチャレンジして欲しいですね。

情報公開のリスクは気にしなくていい?
栃尾

クラファンでは、当然ながら発売より先に新製品の情報が出てしまうわけですが、そのデメリットはないのでしょうか?

ぺー

確かに一昔前までは、リリース前の製品情報を守ることが大事とされていましたね。メディアが新聞やテレビしかない時代には、発表と同時にそこに掲載されることが重要でした。でも今は、某スマートフォンのように厳戒な情報統制をしていてもみんなが知りたいものはどこからともなくリークされますし、一気にドーンと花火を打ち上げるようなマーケティングは今の時代に効果がないことも多い。若者はテレビも新聞もあまり見ないですしね。それよりは、情報をリリース前から少しずつ段階的に出していくほうが効果的。例えばTwitterで情報発信するという時を考えてください。顧客になる方って常にTwitterの画面を開いているわけではないですよね。なので、いつ自分の情報に触れてくれるかわからない分、何度も何度も情報発信をして先行して接点を作っていくのがベストです。情報に触れることでその製品のことを考える時間も増えていくものなので。その分、愛着が増して、ジブンゴト化もしてもらいやすくなります。リリース前からファンを育てることが、今の時代に合っているんだと思います。あと特に、プロジェクト開始日などの日付を刷り込んでおくことは重要ですね。

企業が新規事業や新しいプロダクトをスタートする際に、クラウドファンディングを選ぶことで、さまざまなメリットがある。「All or Nothing」にすれば、最小限のリスクでチャレンジできる。最重要顧客との接点を得られれば、今後のマーケティングにも有効だ。次回は、クラウドファンディングでは欠かせない「ストーリー作り」について伺う。

ぺー@クラウドファンディング・アドバイザー
今までにクラウドファンディングを2度実施し、合計4,500万円、7,000人以上の支援を集める。その時のノウハウを元に、クラウドファンディングに挑戦したい人に対してサポート・コンサルティングをしている。マーケティングの他、iPhone(スマホ)に詳しく、行政書士の資格を持つなど多彩。プロフィール画像は、漫画家三田紀房先生のドラゴン桜2が好きで描いてもらったもの。noteでクラウドファンディング基礎講座(https://note.mu/peee)を連載中。問い合わせはTwitterのDMで https://twitter.com/pe_e_chan

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも