ファンを育む“習慣化”の極意

第1回 ファン度を高めるためのオウンドメディア

10年ほど前から、オウンドメディアの「ネスレアミューズ」を展開しているネスレ。コンテンツの数で勝負するのではなく、高いクオリティの動画などを戦略的に配信している。第1回目は「ネスレアミューズ」の概要について、ネスレ日本 マーケティング&コミュニケーションズ本部デジタルマーケティング部 部長の出牛誠さんに伺った。

発展し続ける「ネスレアミューズ」

栃尾:
ネスレさんは、「ネスレアミューズ」というオウンドメディアを展開されていますが、いつごろからスタートし、現在はどれくらいの規模になっているのでしょうか?

出牛:
2010年の秋に公開したので、現在は10年弱ですね。オウンドメディアのプラットフォームとして展開しています。規模としては、ネスレ会員が現在600万人以上。
セッション数は年間約8000万です。毎年増加していますが、決して数だけを追っているわけではありません。会員の方とどのように継続的なコミュニケーションを取らせていただくのかという質の方に重点を置いています。
ユーザーとのコンタクトポイントは必ずしも「ネスレアミューズ」を経由してコンテンツを見るばかりでなく、YouTubeのオフィシャルチャンネルから視聴している方もいらっしゃいます。複数のブランドを跨いで、いろいろなコンテンツの“中心”となっているハブだと考えています。弊社は「ネスカフェ」をはじめ、「キットカット」、調味料、ペット用フードなどのブランドを展開しているので、統合してシナジーでつなぐような機能が必要なのです。

時代の変化と共にWebになり、スマホファーストへ

栃尾:
「ネスレアミューズ」が誕生した背景を教えていただけますか?

出牛:
もともと、「Together Nestle」というオフラインでの会員コミュニケーションを行っておりました。時代に即して、生活の情報の接点をデジタルに移行しようというのが誕生の背景です。
エンターテインメント的に、バラエティやゲーム要素を入れ、何度も訪れたくなるサイトを目指し、「楽しんでもらいたい」という想いから「アミューズ」という名前を冠しました。

栃尾:
途中、メディアとして変化したタイミングなどはありましたか?

出牛:
2013~2014年ごろから、モバイル(スマホ)ファーストへの意識が高まりました。コミュニケーションの主体がスマホになり、WebサイトだけでなくYouTubeやSNS、アプリなど、プラットフォームが多様化した。それに対応して、「ネスレアミューズ」もドラスティックな拡充をする必要がありました。
時代の変化に伴い、ユーザー体験を重要視するようになりました。また訪れたくなったり、習慣化したりするような施策を入れて、継続的にコミュニケーションを取っていくことを大切にしています。

ファン度を高めるのが「ネスレアミューズ」の役割

栃尾:
ネスレさん社内における「ネスレアミューズ」の役割はどのようなものですか?

出牛:
弊社の様々な製品に対して、より深い情報をお伝えしてさらにファン度を高めていただきたい。
データを見ると、「ネスレアミューズ」を頻繁に訪れていただける方ほど、製品の購入が高いことが明確にわかります。したがって、訪れ続けていただくことで、自然と購入の回数が上がる。実際、訪問頻度が止まると購入も下がる傾向があります。これは通販に限った話ではなく、店頭などでご購入いただく場合にも、「ネスレアミューズ」を訪れることと相関があることがわかっています。

栃尾:
何度も訪れてもらうようにする工夫にはどのようなものがありますか?

出牛:
もう一度来ていただけるようにする施策や、新しい情報に触れていただくようにする施策として、様々な手法をいくつも組み合わせています。定期的な更新に加えて、例えば、あるコンテンツを最近見られていない方には、画面の隅にPUSH型のポップアップをレコメンド情報として出しています。最も重視しているポイントはサイトへの来訪を「習慣化」していただくことです。そのために、「新しく知ってもらう」や「思い出してもらう」機会にはこだわっていますね。また、わからないことがあったタイミングを逃さないために、Watsonを採用したお問い合わせチャットも用意しており、ストレスなくその場で問題を解決していただけるように努めています。
マーケティングでよく言われる、お客様の行動に応じたコミュニケーションを取っていく「Right Message to Right Person at Right Time」の実践を大切にしていますね。

栃尾:
新規の方に来ていただけるような施策は取っていますか?

出牛:
数多くのブランドを展開させていただいているので、最初に関心をもっていただくきっかけは様々だと思います。施策に応じて一度きり1商品のみの接点になるのではなく、その接点をきっかけに相乗効果で、ネスレに関心を持っていただくことを目指しています。
例えば、「ネスカフェ」をきっかけに訪れてくださった方に、「キットカット」やペットフードの情報も見てもらうような導線を作るといったことで、単体で行っていては起きないシナジーがそこに生まれてくるのです。

定量的に数を追うのではなく、定性的に「ファン度」を高めていくことがゴール。何度も訪れてくれるロイヤリティの高いファンを醸成し、リピートしてもらうことを大切にして、発展させてきた。第2回は、文字や写真より動画を主要なコンテンツとして成功させてきた秘訣を伺う。

出牛誠
ネスレ日本株式会社
マーケティング&コミュニケーションズ本部
デジタルマーケティング部 部長
1999年入社。営業、マーケティング、営業企画、ネスレ通販等の担当を経て、2012年より、オウンドメディア『ネスレアミューズ』を担当。『ネスレシアター』の立ち上げをはじめ、コンテンツ開発・デジタル施策を手がけている。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも