ファンを育む“習慣化”の極意

第2回 動画によるコミュニケーションを成功させる秘訣は

動画コンテンツを上手に使いこなす「ネスレアミューズ」は、ネスレのオウンドメディアだ。どうしても制作費がかさみがちな動画コンテンツによる優位性はどんなところにあるのか。ネスレ日本 マーケティング&コミュニケーションズ本部デジタルマーケティング部 部長の出牛誠さんに聞いた。

自ら取りに行った情報は記憶に残りやすい

栃尾:
「ネスレアミューズ」はオウンドメディアの中でも、動画コンテンツの割合が多いようですが、それはなぜですか?

出牛:
コンテンツは動画でなければいけないわけではありません。ただ、現代は受け取る情報の量があまりにも多く、瞬時に情報を選別することが難しい。そうして流れていく情報はなかなか覚えられないが、自分から取りに行った情報は記憶に残りやすいことがわかっています。文字や写真、音声、動画など、さまざまな伝達方法がありますが、動画はその中でもコミュニケーション方法として多くの情報を伝えやすいと考えています。動画と動画以外では、伝えられる情報量には圧倒的な差がありますね。
また、制作するごとに様々な知見がたまってきているので、PDCAを回しながらチーム内でナレッジを共有していくことに努めています。

栃尾:
最後まで見続けてもらうのは難しいのでしょうか。

出牛:
動画の中身や目的によりますね。告知的なものであれば、離脱する間もなくワンメッセージで伝える場合もあります。逆に、ストーリーがよければ長くても見ていただけます。例えば、「上田家の食卓」というドラマ仕立てのショートフィルムコンテンツは、最後まで見ていただけるように制作しています。
このコンテンツで知っていただきたいのは「ネスレ ウェルネス アンバサダー」の認知やサービス内容。そのために動画のストーリーの中で、その特長を伝える必要がありました。とはいえ、冒頭から情報が多すぎると自分ごと化がしづらく離脱しやすい。まずは伏線となるストーリーを楽しんでいただき、最後に「ネスレ ウェルネス アンバサダー」に関するサービス情報を訴求させていただくようにしました。これまでの知見を活かして、最後まで見ていただける完全視聴率も高くすることができたのです。

事業と連動する「ショートフィルム系」、習慣化する「トーク番組系」

栃尾:
他にはどんな種類の動画があるのですか?

出牛:
大きく分けて「トーク番組系」と「ショートフィルム系」があります。「上田家の食卓」はショートフィルム系ですね。トーク番組系には、「宝塚★スタート―ク」や「中山秀征のカフェする!?」があります。

栃尾:
それぞれ、どのような特徴と狙いがあるのでしょうか?

出牛:
ショートフィルム系は「ネスレシアター」と冠して展開しています。例えば、「上田家の食卓」のようなオリジナル作品は、1年に1作品か2作品ぐらいのペースで公開していて、ブランディング活動やサービスの立ち上げと連動したりもしています。過去に公開していた作品では、店舗のオープンと同じタイミングで、その実店舗でロケを行い、物語の中に登場させたことも。いわゆるロケーションプレイスメントという手法ですね。コンテンツ単体としてではなく事業との相乗効果も視野に入れていますし、しっかり伝えたいことを、ストーリーを通して柔らかく伝えていくことを目的としています。実際にプレイスメントが上手くいったケースとして、視聴者から「見終わった後に思わずキットカットを買いに行っちゃいました!」というコメントをいただいた時は嬉しかったですね。

栃尾:
なるほど。では、もう一方のトーク番組系はどうですか?

出牛:
トーク番組系は、1年を通じてサイト来訪していただくことが目的のコンテンツになります。毎週同じ曜日に更新することで、習慣化していただくようにしています。例えば、「宝塚★スタートーク」は、宝塚のファンの方に人気のあるコンテンツで、いわゆる「宝塚愛」が強い方が多いこともあって、リピート率が非常に高い。ライブ配信ではないのですが、公開される日時になると、パソコンの前で待機しておられるぐらい楽しみにしていただいている方もいるようです。動画の中で視聴の邪魔にならないよう、なるべく違和感を覚えさせない自然な形で商品を登場させることにこだわっています。自然と商品に興味を持っていただけることが理想です。トークの最中にさりげなくプレイスメントはしつつも、実は認識してもらうために最初にしっかりと紹介させていただいています。このコンテンツは、Twitterからの新規流入が多いのも特徴です。「#タレント名」で検索されて入ってこられたり、動画を視聴されたタレントさんのファンの方がSNSで拡散してくれたりします。

評価する指針を複数設け、通年で予算を捉える

栃尾:
タレントさんを使った動画の場合、制作コストが大きくなるかと思いますが、予算をどのように考えていますか?

出牛:
単純ですが、まとめて収録するといった工夫はしています。ただ、制作費などのコストを見るときに「このコンテンツによって売上がどう変わったか」という見方はせず、全体で見て判断するようにしています。また、さまざまな施策を組み合わせているので、単純に測れない部分もありますね。

栃尾:
施策を組み合わせるとは、具体的にどのようなものでしょうか?

出牛:
例えば、「上田家の食卓」は、ショートショートフィルムフェスティバル&アジアのセレモニーで発表する機会をいただけたため、映画関連メディアやビジネス誌に取り上げてもらえたので、非常にPR効果が高かったと言えますね。他にも、ショートショートフィルムフェスティバルからコンテンツを提供いただいている「世界を巡るショートフィルム劇場」というコンテンツがあります。そのキャンペーン企画として、ネスレ会員の方に人気投票に参加していただき、グランプリになった作品の監督に、ネスレが制作費のサポートをしてオリジナル作品を制作してもらうという立体的な立て付けにしたこともありました。基本的な考え方として、動画コンテンツはワンソース・マルチユースをするように心掛けています。例えば、動画内の生コマーシャル部分だけを切り出して再編集し、SNS投稿用の動画として使うなど。ひとつの企画を様々な使い方をすることで利用価値を高め、全体でとらえるとコストを抑えるように努めています。

栃尾:
評価対象はコンテンツによってまちまちですか?

出牛:
実施前に、評価対象とするKPIは決めています。ただ、できるだけ複数の評価指標を持つようにしています。正しいKPIを設定することが大切で、Webだからといって数値だけで見てしまうと、間違いが起きやすい。PR効果や拡散効果なども評価の対象としていますし、どれだけ接触頻度があったのかも見ていますね。直接購入に繋がることももちろん大切ですが、まずは「ファン化」というキーワードでとらえ、様々なコミュニケーションの蓄積の集大成が、結果的に売上につながるように設計をするという考え方です。

コストが高くなりがちな動画コンテンツだが、その成果を短期的に求めないことが効果を最大化する秘訣。さまざまな波及効果をできるだけ計測して、リピート率の高いコンテンツを配信し続けていく。次回は、ファン化から購買行動までをいかにスムーズにつなげていくのか秘訣を伺う。

出牛誠
ネスレ日本株式会社
マーケティング&コミュニケーションズ本部
デジタルマーケティング部 部長
1999年入社。営業、マーケティング、営業企画、ネスレ通販等の担当を経て、2012年より、オウンドメディア『ネスレアミューズ』を担当。『ネスレシアター』の立ち上げをはじめ、コンテンツ開発・デジタル施策を手がけている。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも