懐かしいコンテンツをデジタルで復活

第2回 電子書籍やYouTubeで拡がりが見えてきたデジタル展開

児童書として人気を誇る『ジュニア空想科学読本』。20~30代でも、「子どもの頃に読んでいた」というファンは多い。数年前からデジタルに力を入れ始め、うまくいかないこと、うまくいったことが多々あると語る空想科学研究所の所長、近藤隆史さん。直接のお金にはならないTwitterのフォロワーこそが大きな資産だという、その理由を伺った。

デジタル展開はまだ道半ば。電子書籍に宿る不思議

栃尾:
出版業界全体で、デジタルへの移行が必要とされていると思います。空想科学研究所ではどのような施策をしていますか?

近藤:
Webサイトは以前から作っていました。専任になったときにリニューアルをして、ある程度コンテンツを読めるものに変えました。いま、再度リニューアルして、読者からの質問に答える原稿を読めるようにしようとしています。電子書籍は、いまのところ『ジュニ空(ジュニア空想科学読本)』など、一部の子ども向けの本だけですが、他の本も読めるように準備中です。子ども向けだと、電子書籍はなかなか売れないのですが、2年前に進研ゼミの会員向け読み放題サービス『電子図書館まなびライブラリー』で読めるようにしたところ、驚くほど読まれるようになりました。

栃尾:
同じ電子書籍でも、場所によって違うのは面白いですね。

近藤:
まなびライブラリーで質問を募集したら、8千通届いたんです。「子ども向けの電子書籍はキビシイ」というイメージを持っていましたが、配信するプラットフォームによって、届くかどうかは変わるんですね。やはり「届け方」が重要だなあと実感しました。

テーマを絞って質問に答えるTwitter

栃尾:
ほかには、TwitterやYouTubeが中心ですか?

近藤:
そうですね。Twitterは以前からやっていたのですが、いろいろな試行錯誤を始めたのは専任になってから。いまフォロワーが7万人くらいです。加えて、一作年からYouTubeチャンネルを始めました。

栃尾:
Twitterでは、どんなことを発信しているのですか?

近藤:
少し前までは、もっぱら「ネタ」をツイートしていました。「かめはめ波を出すためには、エネルギーがどれだけ必要で……」という説明を140字で(笑)。これ、確かに拡散されやすくてフォロワーも増えるんですが、なかなか大変なんです。本に載せたことを抜き出してツイートするんだったらそれほどでもないのですが、新規のネタだと、アニメを見たりマンガを読んだりするところから始まるので、140字の原稿に何時間もかかったり。

栃尾:
毎回それだと労力がかかりそうですね。

近藤:
利益が出るわけじゃないので、労力の問題も深刻なのですが(笑)、Twitterは人間性が出たほうが面白いんじゃないかと思います。アニメやマンガのネタだと、140字でそこまで表現するのが難しくて……。YouTubeを始めたのは、それも理由の一つです。映像だと、ネタを話しているだけでも、表情やしぐさで人間性が伝わるので。

栃尾:
実施する日時を決めて参加型イベントのようなTwitter企画をなさっていましたよね。あれは面白かったです。

近藤:
Twitterの可能性を感じた大きな出来事でした。それまでも「質問に答える日」みたいなのはやっていたんだけど、この数年やってみたのは、題材を絞り込んで集中的に答えるというイベントですね。「1週間後のこの時間にポケモンの質問に答えます」と宣言しておいて、約束の時間から2時間くらいその場で質問に答えていきます。もちろん、事前に集まった質問については計算したり、ざっくり文章を作っていたりするんですが、ツイートを投稿しているあいだにも、どんどん質問が届くので、後半はもう本当にその場で答えている感じになります。ライブみたいです。

栃尾:
怒涛のように投稿されるのは、リアルタイムで見ていたら面白いですね。しかもその日のテーマのファンだったらなおさら。

近藤:
コンテンツによって盛り上がり方が微妙に違うのも面白いですね。ポケモンとか、仮面ライダーとか、東方シリーズとか、コンテンツによってファン同士のつながりが強かったり、弱かったり……。間違ったことを書くと、即座にツッコミが入るんですが、それも含めてフォロワーさんとのやり取りはとても面白い。教わることも多くて、それが本の仕事にもつながっていくんです。

にわかファンでもフォロワーと一緒なら作れる

栃尾:
Twitterから、どんなことにつながっていったんですか?

近藤:
たとえば、昨年は『ポケモン空想科学読本』や『マーベル空想科学読本』なども出しました。これらの本で何を題材にするかは、どちらもTwitterでフォロワーさんたちからいただいた意見で決めたんです。『ポケモン』は、ポケモン同士の対戦を科学的にシミュレーションするという内容で、どんな対戦カードに興味があるのか、にわかファンの僕や柳田では判断がつかない。『マーベル』も同じで、どのヒーローのどんな能力が気になっているのかを僕らが予想しながら原稿を作っても、間違いなく芯を外すと思うんです。だったら、正直に「よくわからないので教えてください」とTwitterでお願いすると、とても丁寧に教えてもらえる。

栃尾:
ファンやマニアとしては、自分の想いを伝えたくなりますね。

近藤:
フォロワーさんの熱い気持ちを聞いているうちに、こっちもそのコンテンツを好きになっていきます。僕は『マーベル』の世界にはなかなか入り込めなかったんだけど、Twitterでやり取りしているうちに、ヒーローたちにすっかり感情移入するようになりました。Twitterを熱心にやっている人たちは、コミュニティ内で知識を共有しようという姿勢が強いですね。知識の共有を通じて、誰かの役に立てることに深い喜びを感じつつ、そこに自分の存在意義も見いだす人が多いように思います。

栃尾:
英知の集まりですね。

近藤:
本当にすごいですよ。わからないことがあったらフォロワーさんに聞くことも多いんです。例えば、『シティハンター』の香さんは普通「100トン」のハンマーを振り下ろすのがお約束なんだけど、「1億トン」のハンマーが出てきたことがあるらしい。そのシーンがどこにあるのかわからない……というような場合。

栃尾:
漫画を1冊ずつ読み直したり、アニメを1話ずつ見たりするのは大変ですよね……。

近藤:
それをTwitterで聞くと、たちまち「〇巻の〇ページ」とか、「アニメの〇話だよ」とフォロワーさんたちが教えてくれるんです。あっという間!

栃尾:
ファンならすぐにわかるけれど、ファンじゃない人がピンポイントで調べるのはすごく難しい部分ですね。

近藤:
僕たちはとても助かるし、それを検証してツイートしたり、原稿にするとファンの人たちも喜んでくれるんです。オンラインゲームで共闘している者同士のような感覚なのかもしれません。Twitterは、直接お金になるわけじゃないけど、空想科学研究所にとって大きな資産だと思っています。ファンの琴線に触れるポイントをわかっているAIのような……いや、AIはああいう熱い想いはぶつけてくれないので、やはり人間だからこその英知ですよね。だから、単なるネタを一方的にツイートするだけではなく、イベント的に使うなどして、フォロワーさんたちとのコミュニケーションを図っていきたいと思っています。直接的なマネタイズ以上にすごく重要で、いいコンテンツを作るためになくてはならないのがTwitterです。

Twitterを運営し、企画を実施する中で、「ファンの人に聞くのが一番早く、しかも質が高い」とわかったという。作り手側が助かるのはもちろん、ファンは自分の提案が受け入れられればうれしい。まさにWin-Winの関係性を作り上げ、「資産」として活用している。次回は、スタートして1年半で登録者数7万人になったYouTubeチャンネルの秘密に迫っていく。

近藤隆史
有限会社空想科学研究所 所長
1996年、柳田理科雄に『空想科学読本』の企画を持ちかけたところ、予想外のヒットに。1999年、出版社にも協力を仰ぎ、有限会社空想科学研究所を設立。これを機に、コミカライズや法律版、歴史版、英語版など、さまざまな空想科学シリーズを展開、2013年には『ジュニア空想科学読本』の刊行を開始する。15年、在籍していたKADOKAWAを退職、空想科学研究所を株式会社とし、現在は所長として業務に専念。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも