「オンライン幼稚園」の舞台裏を支えた教材エディターの躍動

第1回 緊急事態宣言の中で「オンライン幼稚園」を開設

今年3月に、政府から小中高の休校要請が出た後すぐ、幼児向けのオンラインの幼稚園がスタートし、大きな話題の渦をつくった。すべて無料で利用できるという驚きのプロジェクト「オンライン幼稚園」は、「こどもちゃれんじ」など通信教育を手掛けるベネッセコーポレーションが手がけたソーシャルグッドな取り組みだ。その中心人物となる山田麗央那さんに、コンセプトや当時の様子、素早く提供できた秘密などを伺っていく。

突然に賽が振られ、そしてすべてが初めてだった

栃尾:
「オンライン幼稚園」は、画期的で驚くべきコンテンツですね。プロジェクトはどのように始まったのでしょうか。

山田:
3月に小中高の休校要請が出たときに、「この波は絶対に幼稚園にも広まるだろう」と当然予想ができていました。幼児のいるご家庭で、家から出られないという非常事態。なんとか育児支援をしようと「オンライン幼稚園」の基となるアイデアを上司が企画したんです。

栃尾:
山田さんは、その企画の実行を一手に担ったという形ですか?

山田:
はじめは先輩と2人で、ともかくがむしゃらに猛スピードで進めました。時間もなかったので少人数で一気にやった方がいいとう判断でした。ただ、監修の先生の相談にはベテランの先輩にも同席していただくなど、周りの多くの先輩方のサポートがあったからこそ実現することができました。

栃尾:
そのスピード感の源やご苦労については後ほど詳しくお伺いさせていただくとして……、まずは概要やコンセプトを教えていただけますか。

山田:
まず、譲れない目的として4つを掲げました。「生活リズムを保つこと」「成長と学びにつながる時間の提供」「親子のコミュニケーション創出」「運動不足の解消」です。また、幼稚園の代わりということで時間を決め、最初は平日の朝10時から14時過ぎまでの決まった時間に配信としました。

栃尾:
幼児のいるご家庭は、すごく助かっただろうと思います。どれくらいの方が利用されたんですか?

山田:
スタートした後、海外にお住まいの方から「時差があっても見られるようにしてほしい」とリクエストがありました。そこでリアルタイム配信だけでなく、アーカイブを翌日までは見られるようにしました。この効果により海外にも広まり、100か国以上の地域で、利用者は70万人ほどになったんです。

栃尾:
すごいですね! 期間はどれくらいだったんですか。

山田:
3月18日から開始して、5月25日に非常事態宣言が解除されるまでの約2か月強です。

丁寧な感謝のメールに勇気づけられた

栃尾:
利用者の方の反響はいかがでしたか。

山田:
「ずっと動画を見せていても罪悪感がないし、学んでいる気がする」という親御さんの感想や、「『てあらいの時間』を見て、自分で手を洗いに行った」と、行動につながったという感想もあり、とても嬉しかったです。

栃尾:
ずっと見ているだけでなく、学んだり行動したりしてくれるのは、親としてはありがたいですね。

山田:
他にも「時間が決まっているので生活リズムを整えられる」「お姉さんが呼び掛け、遊びを教えてくれるので親子のコミュニケーションが生まれる」といった、私たちのねらい通りの感想をいただけたのも感激しました!

栃尾:
子どもも楽しくて、親御さんも満足できるコンテンツが無料だなんて、夢のようですね……。

山田:
子どもにとってただ楽しいコンテンツを届けることはいくらでもできると思うんです。でもそれだけでなく、「意味のある時間にしたい」という思いがありました。手洗いや生活習慣の助けになり、学びのあるものをお届けできたかな、と感じています。

栃尾:
そのような利用者の方の反応は励みになったのでしょうね。

山田:
本当にそうなんです! 時間に追われすぎて後ろ向きになっていたとき、窓口にちょうど、とても丁寧なメールが届きました。親御さんご自身の大変な状況をはじめ、コンテンツを細かく分析して、私たちが感じてほしいことを事細かく感じてくださっていて……。制作チームにもシェアして、みんなで勇気をいただきました。

栃尾:
ひととおり走り抜けた今、オンライン幼稚園にどんな思いをお持ちですか?

山田:
コロナで世のなか想定外の動きになりましたが、おうちのかたもお子さんがオンライン幼稚園のコンテンツで学んだり楽しんだりしている様子から、お子さんの成長した姿をみる機会になっていたらよいなと思っています。できることなら、お子さんだけではなくおうちのかたも一緒にダンスをしたり歌ったり親子の関わりの時間を増やすきっかけになっていたけたら……。毎日忙しくて時間が取れなかった方も多いと思いますが、この配信を通じて1人でも多くのかたが笑顔で楽しい親子時間を過ごしてもらえたとしたら、本当にうれしいですね。

キティちゃんなど有名キャラクターとコラボ

栃尾:
キティちゃんや、くまモン、チェブラーシカなどとのコラボもなさっていましたが、ご苦労はありましたか。

山田:
私が直接携わったわけではなく、別の先輩が実現してくださいました。ストレスを感じるお子さんに元気になってほしい、また、運動不足を解消したい、という思いでした。

栃尾:
だから体操なんですね。

山田:
専門の先生に監修していただいて、しっかりと身体を動かせるようになっています。また、英語と中国語版も制作して、海外向けにも発信したんです。

栃尾:
他社キャラクターも一緒になったプロジェクトは大変だったのではないですか。

山田:
実は弊社には東日本大震災の時に、たくさんのキャラクターが協力するといったプロジェクトに参加した経験があったんです。その時の経験が活きて、今回は素早く動けたと聞いています。たくさんの会社さんにお声掛けをさせていただいて、参加をいただけるパートナーを探しまわって何とか実現までこぎつけたという形です。

栃尾:
やはり、NGのところもあったんですね。

山田:
NGというより、協力したくてもスケジュール的にどうしても難しい、というケースですね。他社とのコラボレーションのような大掛かりな仕掛けには、やはり準備に一定の時間が必要なものですから。

栃尾:
なるほど。組織の規模によっては難しいこともあるでしょうね。でも、この「オンライン幼稚園」の存在によって、たくさんの子どもさんや親御さんが勇気をもらえただろうと思います。

前例のないスピード感で進める中、しっかりとしたコンセプトで進め、喜びの声もたくさんもらったという山田さん。次回は、なぜそんなにも早く実現できたのか? その秘密に迫ります。

山田麗央那さん
株式会社ベネッセ―コーポレーション
グローバルこどもちゃれんじ日本本部 ナーサリー事業部 ぷち商品課
新卒入社で、幼児向け通信教育サービス<こどもちゃれんじ>の商品開発部に配属。
入社から4年間、プレスクール(4・5・6歳児)向けの商品開発に携わり、現在は1・2歳児向けの主に映像教材や絵本の編集担当をしている。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも