「オンライン幼稚園」の舞台裏を支えた教材エディターの躍動

第2回 普段とは全く異なる制作プロセスでわずか1週間での公開を実現

コロナ禍で学校や幼稚園が休校になる中、小さな子どもがいるご家庭の救世主となった「オンライン幼稚園」。プロジェクトのスタートから実現まで、寝る間も惜しんで走り抜けたのが、こどもちゃれんじ編集部の山田麗央那さんだ。普段ならありえないスケジュールをどう切り抜けていったのか、その苦労や工夫を伺った。

企画書1枚と「オンライン幼稚園」の掛け声からスタート

栃尾:
普段有料の教育コンテンツサービスを提供されている御社が、無料でコンテンツを提供するというのは、とても大きな判断だったと思うのですが、いかがですか。

山田:
こんな非常事態ですから、一部の限られた人でなく、できるだけ多くの困っている人に届けたいという思いでした。もはや「会員限定で公開」なんて言っている場合ではないと考えたんです。企画した上長が「オンライン幼稚園を作るぞ」と旗を揚げたときから、ともかくひとりでも多くの方に提供することに意味がある、という考え方でした。

栃尾:
上司の方が強いリーダーシップで引っ張られたんですね。

山田:
ところが、上長が作った企画書はスライド1枚(笑)。制作会社さんには上長から真夜中に電話をかけくれていて、次の日に私から連絡をしたら、もう既に話が通っていたんです。「昨日の電話で『やります!』と言ったが、何をするのかよくわかっていません」と言われて。そんな怒涛のスタートでしたね。

栃尾:
まさに、テレビドラマみたいですね……!

山田:
そこから「『幼稚園』でやることはなにかな……」と、ひとつずつ考えていきました。先輩と2人で「読み聞かせ、あるよね」「お遊戯とかかな?」「お弁当の時間に手洗いや『いただきます』の挨拶も」というように、洗い出して盛り込んでいきました。

栃尾:
どれくらいのスピード感だったんですか。

山田:
「オンライン幼稚園やるよ」と言われて、1週間後にリリースしたんです……!!
作りながらも「リリース間に合わないかも」とドキドキする瞬間もありました。

栃尾:
そんな短い期間だったんですね! すごい。私もコンテンツの作り手なのでわかりますが、その短期間で、しかも動画コンテンツをリリースできるイメージが湧きません。

別チームのテレビの資産をフル活用

栃尾:
具体的にはどのように進めたのですか?

山田:
普段の私たちは、とても丁寧に時間や多くのチェック工程を経て教材を作っています。今回も本当は新規に撮り下ろしをしたかったのですが、それでは絶対に間に合いません。そこで、テレビチームに「コンテンツを貸してください!」とお願いしました。

栃尾:
テレビ番組からですか?

山田:
毎週土曜日の朝に「しまじろうのわお!」というテレビ番組を放送しているので、そのコンテンツです。「オンライン幼稚園」の監修の先生が、この番組と同じ方だったこともあり、ぜひお願いできればと思いました。

栃尾:
うちの子どもが小さいころ、よく見ていました! 確かに、いろいろなコーナーがありますね。

山田:
10時から14時は尺が長すぎて、すべてを新しく作ることはできません。テレビの資産を借りつつ、先生が出てきて挨拶や声かけをするコンテンツなどは新規で撮る、という二段構えで進めました。

新しい動画も猛スピードで制作

栃尾:
今までの資産を活用するとしても、新しく動画を撮影した部分もあったんですね。

山田:
お姉さんが登場するシーンなど全体の4割強は新しく撮りました。普段お願いしている方はあまりにも急すぎてスケジュール的にも難しかったので、制作会社さんになんとか新しいお姉さんを探していただきました。普段からチームを組んでいる会社さんなので、私たちの意図だったり、想いだったりも深いところまで理解してくださっているからこそできたウルトラCでした。

栃尾:
普段はもっとじっくり選ばれるのでしょうね。

山田:
とても慎重に選ばせていただいています。今回は、制作会社さんを信頼して、先生のキャストさん選定でも、プロフィール資料を確認して、声すら聞いたこともないという普段では考えられない状況でした。セリフを合わせる時間もなくて、撮影日当日にその場で顔合わせを1度して、さっそく撮影に挑みました。

栃尾:
普段の「こどもちゃれんじ」はとても丁寧に作っているでしょうから、「丁寧に作りたい」というジレンマが大きかったのではないですか?

山田:
そうなんです! それはものすごくありましたが、臨機応変にコンテンツを作るのはとてもよい経験となりました。普段はコンテを起こして、セリフを一言一句まで子どもの心に響く表現になっているかな?間違った情報になっていないかな?などとしっかりと監督や編集部内で話しあったり監修の先生に相談したりしながら確定していきます。そうやって、万全の態勢で撮影に挑みます。ところが、「オンライン幼稚園」では大まかな構成案だけを作って、その場でアドリブに近い感覚で言葉を変えていくというスタイルでした。

栃尾:
その場の判断がとても重要になりますね。

山田:
普段は事前にコンテやセリフを監修の先生にしっかり見ていただくのですが、今回は監修の先生にも想いが伝播して「立ち合いますよ!」と言ってくださって。とてもお忙しい先生なのですが、その言葉に甘えて、撮影現場で「この表現で大丈夫ですか?」などと伺いながら作っていきましたね。

普段の業務で培った丁寧な制作プロセスは脇に置き、スピード重視で進めていった。取引先とも信頼関係を築いているからこそのスピーディな対応が可能だったのだろう。次回は、「オンライン幼稚園」で培った経験はノウハウで、これからに生かせるものを聞かせてもらう。

山田麗央那さん
株式会社ベネッセ―コーポレーション
グローバルこどもちゃれんじ日本本部 ナーサリー事業部 ぷち商品課
新卒入社で、幼児向け通信教育サービス<こどもちゃれんじ>の商品開発部に配属。
入社から4年間、プレスクール(4・5・6歳児)向けの商品開発に携わり、現在は1・2歳児向けの主に映像教材や絵本の編集担当をしている。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも