「オンライン幼稚園」の舞台裏を支えた教材エディターの躍動

第3回「オンライン幼稚園」の知見を次に生かしていく

なかなか外出できない状況で、親と子どもを救った無料コンテンツ「オンライン幼稚園」。スピード重視で走り抜けたプロジェクトだったが、緊急時だからこそ気づけたノウハウや知見もたくさんあったという。プロジェクトを担当した山田麗央那さんに、今後に生かせることについて伺った。

スピードのほかに苦労したこととは……?

栃尾:
1週間後にリリースするために大変な苦労があったわけですが、スピード以外の苦労はありましたか。

山田:
1番は時間がなかったことですが、他に面食らってしまったのは緊急事態宣言が出て「3密」を避けねばならないことでした。

栃尾:
急いでいるのに、それは踏んだり蹴ったりですね……。

山田:
普段は、出演者が1人でも、たくさんのスタッフがスタジオに入って撮影します。照明、カメラマン、美術、ヘアメイク……。それができないことになるので、どうしようかとスタッフ同士で緊急ブレストをしました。

栃尾:
アイデアを出し合って……。

山田:
そうですね。そこで決めたのは、楽器の演奏や体操、読み聞かせなど、出演者の方に家で撮影してもらうようお願いすること。スマートフォンと椅子があれば撮影できますから。普段のこだわり抜いた映像クオリティよりは多少劣ってしまいますが、むしろバラエティを持たせることができるチャンスなのでは?とポジティブに考えたんです。

栃尾:
確かに、逆に楽しいかもしれませんね。

山田:
スタジオで撮影することもありましたが、人を極力少なくして、お互いに数メートルの距離を保つように撮影しました。私はスタジオの端の方でモニター越しにチェックする感じです。また、普段は雑音が入りにくい地下のスタジオで撮るのですが、どうしても密になってしまうので、窓を開けて常時換気ができるハウススタジオで撮影したりもしました。

 

教材を作る時にも生かせるノウハウが生まれた

栃尾:
撮影以外で困ったことはありましたか?

山田:
打ち合わせやリハーサルですね。これまでは会って膝を突き合わせて話すのが当たり前でした。実際に物を触って、見て、細かなニュアンスを確かめながら作っていくのが常だったのです。

栃尾:
小さな子ども相手ですから、言葉だけではない微妙なニュアンスは大事ですよね。

山田:
でも、会って話すことがままならないので、オンラインで会議をしていましたね。さらにリハーサルもオンライン越しです。でも、それを経験したおかげで、普段の教材づくりでも、オンラインでリハーサルできるようになりました。

栃尾:
会わなくてはいけない、という固定観念が崩されたんですね。

山田:
他にも、これまで教材の撮影には、関係者に必ず立ち会ってもらっていました。例えば、おもちゃの使い方を説明する動画なら、おもちゃの制作担当の方に立ち会ってもらい、間違った使い方にならないようにしています。でも今は、撮影現場と会社オンラインでつないで、担当者がスタジオに来なくても確認してもらえるようにしています。

栃尾:
なるほど。立ち会う方は移動時間や拘束時間がほぼないですから、その方が効率的ですね。

山田:
そうなんです。それから、大学の先生などにお話を伺う際、これまでは「誠意をもってお話を聞くには対面でお伺いしなくてはいけない」という思いがあり、遠方でも出張していました。でも今は、京都など遠方にお住まいの先生にもオンラインでお話を伺うといったことができるようになりましたね。

知見を活かして「オンライン幼稚園 サマースクール」がスタート

栃尾:
6月から、オンライン幼稚園のサマースクールが始まったんですよね。

山田:
はい。この夏も、外出自粛は続くことが予想されていました。イベントや習い事をためらうご家庭も多いでしょうから、お家で習いごとや夏の体験ができることをコンセプトにしています。

栃尾:
「オンライン幼稚園」の知見を活かしているのでしょうか?

山田:
「オンライン幼稚園」の知見を活かしつつ、ブラッシュアップしていく形です。オンライン幼稚園は、とても急だったので、どうしてもクオリティに目をつむらなくてはいけない部分がありました。サマースクールも準備期間はとても短かったのですが、より子どもに寄り添ったコンテンツにしています。

栃尾:
例えばどんなことですか?

山田:
オンライン幼稚園では、年齢ごとにコンテンツを分けることができませんでした。でも、サマースクールでは、0~3歳、4~6歳と、発達段階に分けたコンテンツを配信しています。発達に細かく合わせたコンテンツをご提供するのが、うちの強みでもありますから。余談ですが、例えば、しまじろうの声優さんも見る対象の年齢によって、言い回しはもちろん、実は、声音も変えているのです。

栃尾:
「オンライン幼稚園」の目的は、子どものいるご家庭を支援する、いわば慈善事業のような形でしたがそれでも企業としてよい効果があったのではないですか。

山田:
そうですね。意識していた訳ではないのですが、後日、ブランド・広報部が実施したブランド調査では、コロナ対応に対する姿勢を評価していただき、ブランドイメージがリフトアップしたという結果が出ていたようですね。信頼感や好感度をもっていただけたようです。SNSなどでも、そういったお声は感じていました。

非常事態に無料サービスとしてスタートした「オンライン幼稚園」だが、企業のイメージアップや、夏の「オンラインサマースクール」につながっていった。また、いい意味で固定観念が覆され、普段の制作の効率化にもなっている。次回は、今後ますます進むであろうオンライン学習について、今の課題や未来の可能性について伺っていく。

山田麗央那さん
株式会社ベネッセ―コーポレーション
グローバルこどもちゃれんじ日本本部 ナーサリー事業部 ぷち商品課
新卒入社で、幼児向け通信教育サービス<こどもちゃれんじ>の商品開発部に配属。
入社から4年間、プレスクール(4・5・6歳児)向けの商品開発に携わり、現在は1・2歳児向けの主に映像教材や絵本の編集担当をしている。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも