幼稚園や保育園の休園が相次ぐ中、家庭を支援するために「オンライン幼稚園」を立ち上げたベネッセコーポレーションの山田麗央那さん。ご自身は、子どもの五感を使った学びも非常に大切にしていきたいという。今後、オンライン学習はどのように変わっていくのか。今の課題と未来の構想について伺った。
小さい子供はオンラインでの意思疎通が難しい
栃尾:
「オンライン幼稚園」は、新たなチャレンジをなさいましたが、オンライン学習の課題として感じていることはありますか。
山田:
小学生以上であれば、オンラインでも意思疎通ができます。「わかった」というリアクションを確認しながら進めることが可能です。ところが、1歳のお子さんとオンラインで会話はできませんし、楽しんでいるということを明確に捉えるのも難しいんです。
栃尾:
実際に対面していればわかることも、小さな子供であるほど画面越しではニュアンスが伝わりにくいですよね。
山田:
そうですね。でも、おうちの方は目に見える成果を期待します。1~2歳はちょうど発語が始まる頃ですが、子どもによって本当に発達がバラバラなんです。発語が遅くても、そういう子どもほど、頭の中に言葉を溜めていたりします。急に、「そんな言葉、いつ覚えた?」というぐらいに一気にしゃべり出すお子さんもいらっしゃると聞きます。
栃尾:
本当にそうですね。まだ話せない子どもの成長は、目に見えにくいかもしれません。
山田:
3歳未満の子どもがどうやってインプットしているのかはある程度わかっているのですが、それをオンラインに結び付ける方法は、これからの課題ですね。
栃尾:
そうなると、親を巻き込むことが必要になってくるんでしょうか。「こどもちゃれんじ」は親向けの冊子なども充実しているイメージです。
山田:
それも、一筋縄ではいかないんです。私たちとしては親子のコミュニケーション機会やそういう時間をしっかり持ってもらいたいと考えています。ところが、今は共働きのご家庭も多く、まとまった時間を取るのが難しい。ですから、普段の教材でも、一緒に使うことを前提としたような提案をむやみにしないよう気を付けています。
双方向のやり取りになるよう工夫
栃尾:
オンラインの可能性はどのようなところにありますか。
山田:
やはりインタラクティブ性だと思います。「オンライン幼稚園」では、先生と身体を使ったゲームや遊びなど、子どもが画面の前でアクションを起こせるコーナーを新規制作しました。疑似的に通園している感じを出すために「朝ご飯は何を食べたかな?」と尋ねるなど、やり取りが発生するように心がけました。でも結局、1対数十万人の一方通行の発信になってしまいます。子どもが持っている素直な習性を利用した疑似インタラクションなんです。本当は、子どもが言ったことに対して反応ができるといいのですが……。
栃尾:
もう少し年齢が進めば、そういうこともできそうでしょうか。
山田:
そうですね。小学生の高学年以上では、チャットで返信をするなど、個別対応も可能になってきています。
栃尾:
ベネッセさんは、タブレット学習も進んでいますものね。
山田:
最近は個別学習ができるようになっています。例えば、中学生は「つまずき」にも対応できます。わからないところをチャットでこっそり先生に聞いたり、システムが「小学生のこの分野まで戻ってみよう」と判断して、その子に本当に必要な苦手分野を発見して提案したりできるようになっています。
栃尾:
オンラインでも、個別対応がかなりできるようになっているのですね。
画面を通したコミュニケーションだけでなく、メディアミックスが大切
栃尾:
「オンライン幼稚園」を通して、今後の課題として感じたことはありますか。
山田:
もともと感じていたことですが、「オンライン幼稚園」でより感じたのは、開発の課題感です。じっくり1年かけて教材を練りこんでいく方法では、親子とそれを取り巻く環境の変化に対応しきれなくなってきています。
栃尾:
子どもの発達は、時代を超えてもそれほど変わらないイメージがありますが、そんなに変化が早いですか?
山田:
発達というよりは、子どもを取り巻く生活やおうちのかたの意識の変化ですね。それに対応するには「昨年はこれがウケたから、今年も似たようなもので行こう」という商品の作り方は、今はもう成り立たないかなと。
栃尾:
親御さんの変化は確かに早いでしょうね。例えば、ゲームやYouTubeに対する抵抗感は、どんどん薄らいでいます。
山田:
そうですよね! それなのに、DVDは海外の工場でプレスするのにとても時間がかかるため、お客様に教材をお届けする月の約半年前に撮影しています。その間に世の中は変化してしまうんです。オンライン配信なら、その時間を一気に短縮できます。また、そもそもDVDプレイヤーのないお宅も多いですよね。
栃尾:
確かにそうですね!
山田:
「オンライン幼稚園」は、モニターを通したコミュニケーションでしたが、今後の幼児教育がすべてそれで賄えるとは思っていません。やはり、子どもは手先をはじめとして、身体を使った学びが不可欠です。場を使ったコミュニケーションで五感を刺激していくようなサービスも必要だと思います。
栃尾:
どんなふうに実現できるのでしょうか。
山田:
例えば、インタラクティブに実施するために、スポーツクラブのルネサンスさんと共同でテスト的にダンスレッスンを開催してみました。近くにダンス教室がなかったとしても、おうちにいながら遠隔でダンスレッスンが受けられます。もちろん、まだまだリアルな教室の先生ほどではないですが、オンラインでも充分に個別対応できることがわかりました。
栃尾:
DVDではなく配信サービスにしていくと、あまたある競合と戦うことになりませんか?
山田:
私たちは子どもの発達に合わせたコンテンツを作りこんできた長い歴史とナレッジがあります。発達ごとにフィットした、本当に良質なものを届けているという自負があります。見せっぱなしでも安心、というコンテンツは、他社サービスとの競争に負けない強みだと思っています。
栃尾:
確かにそうですね。ピンキリのコンテンツが氾濫しているいまだからこそ、クオリティがしっかり担保されているという証明は圧倒的な強みになりますね。親としても安心できます。
山田:
時代は変化しますが、子どもが夢中になったり笑顔になったり、遊びを通して学ぶ姿を生み出したいです。そしていつもおうちのかたとお子さんに寄り添い、一緒に成長の瞬間に立ち合うことができる、そんな存在でいられるように私は子どもたちのために商品を作り続けていきたいと思っています。
今後は、オンラインにも双方向のやりとりが必要になっていく。ベネッセコーポレーションは、さまざまな施策やチャレンジをしながら、今後も新しいコンテンツを提供してくれるだろう。
山田麗央那さん
株式会社ベネッセ―コーポレーション
グローバルこどもちゃれんじ日本本部 ナーサリー事業部 ぷち商品課
新卒入社で、幼児向け通信教育サービス<こどもちゃれんじ>の商品開発部に配属。
入社から4年間、プレスクール(4・5・6歳児)向けの商品開発に携わり、現在は1・2歳児向けの主に映像教材や絵本の編集担当をしている。
栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも