動画で変わる、これからのEC

第2回 動画がインタラクティブになることの可能性

コロナ禍で必須となったビジネスのオンライン化。動画活用の場が広がる中、差異化と工夫の手段は? また動画そのものが構造的に持つ課題をどう解決していけばいいのでしょうか。いくつかのケーススタディから深く紐解いていきます。

リアルイベントの代替にプラスアルファの価値
WIT

ビジネス環境の変化を受けて、動画をより効果的に活用しようと試みる企業も多かったのではないでしょうか。

井上

はい。弊社でもそういったご相談を多くいただきました。わかりやすい事例としてパリコレにも出ているファッションブランドのANREALAGEさんのケースがあります。

ANREALAGE Spring-Summer2021 COLLECTION “HOME”
WIT

動画の中でコレクションのコンセプトをビジュアルで表現しながら、作品(商品)を見せていく流れですね。

井上

はい、ブランドの世界観にこだわって制作された映像です。ただ、これをYouTubeで配信してもそこからどれだけ購入が発生したのかは計測できません。また、価格や購入ページを表示したり、概要欄のリンクを確認してくださいといったメッセージ表示は、ブランドの世界観を壊してしまうのでできないという課題がありました。そこで「TIG」に白羽の矢がたったのです。
動画の中にあるモノにタップすることで、そこに紐づけられた情報が右側のタブに”ストック”されます(これを「TIGる」と呼んでいます)。そこから製品紹介ページへ飛んだり、Instagramを見たり、購入ページを訪問するといったアクションが可能です。

WIT

単に「認知」やリアルの代替としての動画ではなく、プラスアルファの価値を探していらっしゃったんですね。

井上

そうなんです。今年はパリコレが史上初のオンライン開催になってしまいました。これまでもショー向けのブランド映像は制作していらっしゃいましたが、いざオンライン開催となった時、これまでと同じように制作して流すだけで良いのだろうかと。やはりショーはブランドの新しさを発信する場であり、流行をつくる場でもあるので、テクノロジー面でも新しい挑戦が必要だというコンセプトから、TIG動画をご採用いただきました。

情報量と尺の問題を「選択肢」で制御する
WIT

コレクション全体を見せながら、視聴者は自分の興味あるものだけタップして情報を取りに行けるのは、視聴者にとって親切でもありますね。

井上

はい。その点はグループ PSA ジャパン販売株式会社さんに導入いただきました「TIGデジタルショールーム動画」でご説明しましょう。

PEUGEOT 目黒“TIGデジタルショールーム動画”
井上

こちらもコロナ禍でショールームに人が来られない状況から、バーチャルショールームをつくろうという企画でTIG動画を採用していただきました。動画はお客様が店舗へ入るところからスタートし、展示されている車から気になるものをタップすると、この店舗のスタッフによる説明動画を見ることができます。
全車種の説明を1本の動画にすると大変な長尺になりますが、これは目的の車種だけを選んで視聴できる形になっています。店舗をリアルに訪問した時の体験に近いですよね。さらに、詳しい情報をWebで見たり、カタログ請求や試乗予約といったメニューも用意されています。

WIT

企業側としてはつい情報を詰め込みたくなるところですが、見る側にとっては興味あるものだけ見たいですよね。

井上

メディアの発展は情報取得にかける時間を短縮してきました。それが動画になったからといって30分や1時間費やすかというと、映画やバラエティなどのエンタメなら観てくれても、情報取得のためには観てくれませんよね。無駄に長ければ離脱の原因になります。つまり、ユーザーの目的によって適切な尺が全く違うんです。

WIT

なるほど。昨今は短い動画が流行っている印象があります。

井上

そうですね、TikTokやYouTubeのバンパー広告(6秒)が象徴的ですが、動画のメリットがいろいろ言われる中、この2〜3年は短尺化の方向に進んでいました。でも6秒で伝えられるのはせいぜい1商品で、先ほどのANREALAGEさんのようにきちんとブランドや作品の世界観を表現することはなかなか難しいでしょう。実際、短尺の広告で一流ブランドを目にすることはほとんどありませんよね。

WIT

確かに、高級ブランドの短尺動画はあまり観ない気がします。企業の思惑と情報取得効率化のニーズが、TIGの機能にマッチしたんですね。

井上

はい。その点は今年拡大したライブコマースにも現れていると思います。

これまで一部のインフルエンサーを牽引力としていたライブコマースが、コロナ禍のもたらした状況によって幅広い企業・店舗から注目される存在になりました。次回は、ECにおけるライブコマースの価値や現在の課題を井上さんに伺います。

井上卓郎(いのうえ たくろう)さん
パロニム株式会社 COO。(https://www.paronym.jp/) 大阪大学経済学部卒業。ビジネスプロセスアウトソーシング企業に就職し、主に新規事業及び経営企画部門、法務部門を担当。ベンチャー支援事業で起業し、多数のスタートアップ企業をサポート。2017年よりパロニムの事業運営に参画し、取締役を経て2018年より取締役副社長。