動画で変わる、これからのEC

第3回 体験の共有が新しいECをつくる

これまで一部のインフルエンサーを牽引力としていたライブコマースが、コロナ禍のもたらした状況によって幅広い企業・店舗から注目される存在になりました。ECにおけるライブコマースの価値や現在の課題を井上さんに伺います。

情緒的価値を伝え「体験を共有」するライブコマース
WIT

2020年はいろいろな企業や店舗がライブコマースを試していましたね。

井上

はい、お客さんはリアル店舗に行くことができないからEコマースで買う、けれど店舗で買うのと、Eコマースで買うのでは体験に違いがありますよね。私は、その違いは“情緒的価値”を伝えられるかどうかだと考えています。

WIT

情緒的価値、といいますと?

井上

サイズや素材、形状などが生む「機能的価値」と対になる概念で、顧客の心に訴えかけて憧れや満足感を生む価値のことです。例えば、店舗ではスタッフと会話が生まれ、その商品を所有するとどんなワクワク感があるのか、どんなステータスを感じられるのか、など目に見えない価値を伝えてもらうことができますよね。
ライブコマースの良さは、配信者が情緒的価値を伝えることができ、さらにリアルタイムでコメントに反応することで「体験の共有」ができる点にあると思うんです。

WIT

確かに、家電などはWebで製品情報を調べても決めきれず、店舗で触ってみたりスタッフに質問したりすることがありますね。逆に、ファッションなどは店舗でちょっと鏡を見ただけで「お似合いですよ」なんて言われて引いてしまうこともあるのですが…

井上

そこに既存のライブコマースの課題があると思っています。結局、発信者側が伝えたい情報だけ発信するのは、一方的に「お似合いですよ」と勧めているのに近いんですね。いい店員さんはニーズをうまく聞き出して合うものを勧めてくれます。これまでのライブコマースではあらかじめ紹介する商品を動画配信前に決めて事前に準備しておく必要があったので、そういう即興対応が難しかったんです。

WIT

なるほど。テレビショッピング的で広告っぽさを感じてしまいそうです。

井上

そうなんです。それを解決するソリューションとなるのが「TIG LIVE」(ティグ ライブ)なのです。

その場のコメントで試着するライブ感
井上

「TIG LIVE」の最大の特徴は、配信中にその場で商品を「TIG化」(商品情報を画面でタップできる状態にすること)する仕組みがあることです。事前に企業の商品データベースとTIG LIVEのシステムを連携しておけば、ライブコマース中に商品バーコード(値札)をハンディタイプのリーダーで読み取るだけで、先ほどのANREALAGEの動画のように”さわれる”商品情報が画面に表示されます。

WIT

データベースを連携しておくだけで、予定していたもの以外もライブで紹介できるわけですね。

ABC-MART GRAND STAGE×NIKE
井上

そうです。こちらは渋谷にある店舗からライブ配信された「ABC-MART GRAND STAGE×NIKE」 の事例です。人気のインフルエンサーが店内の商品をピックアップしながら紹介していく内容でした。

WIT

いろいろな商品をその場で手に取ったり試着してみたりと、台本もなく全部アドリブのような感じですね。友達との買い物を見ているような感覚です。

井上

そのライブ感が重要だと思っています。視聴者のコメントに応えながらアドリブで商品を紹介する流れは、自然で押し売り感がないし、実際に良いコメントもたくさん寄せられて、時代に合った売り方になっていますよね。

WIT

そうやって配信を楽しんで、あとでTIGっておいた商品をチェックしにいくわけですね。

井上

そうです。この時も、通常のTIG動画と同様、大多数の方々に商品購入ページへとジャンプしていただくことができました。

WIT

やはり、ライブ配信中においても、紹介商品と紐づけて商品購入ページへとシームレスに誘導できることが、サービスとしての大きな強みなんですね。これが検索や概要欄からのリンク経由だったら、なかなか難しいと思います。

井上

はい。通常、YouTubeの概要欄からの遷移は1%以下だと言われています。ちなみに、面白いのが、私たちがこれまでに提供した2000本近い動画について遷移のタイミングを調べてみると、内容や尺にかかわらずほとんどの場合視聴完了時にジャンプが発生していることが分かりました。

WIT

そういう詳しい分析もできるんですか。

井上

はい。商品の確認は後に回して、動画を最後まで見てもらえていることがわかります。我々はユーザーが不快に感じないUIを追求してきたので、そこはやり方が間違っていなかったことが裏付けられたと思っています。/p>

端末の進化や通信環境の進化は、これからのECにどのような変化をもたらすのでしょうか。また、TIGという技術はそこにどんな価値を提供していくのでしょうか。次回は、5GとEコマースの未来について伺います。

井上卓郎(いのうえ たくろう)さん
パロニム株式会社 COO。(https://www.paronym.jp/) 大阪大学経済学部卒業。ビジネスプロセスアウトソーシング企業に就職し、主に新規事業及び経営企画部門、法務部門を担当。ベンチャー支援事業で起業し、多数のスタートアップ企業をサポート。2017年よりパロニムの事業運営に参画し、取締役を経て2018年より取締役副社長。