動画で変わる、これからのEC

第4回 5GとECの未来

端末の進化や通信環境の進化は、これからのECにどのような変化をもたらすのでしょうか。また、TIGという技術はそこにどんな価値を提供していくのでしょうか。5GとEコマースの未来についてうかがいました。

「多接続」「低遅延」でECはもっとライブな体験に
WIT

2020年は待望されていた5G通信サービスが本格的に始まりました。まだエリアは限定的ではありますが、Eコマースの面では今後どんな変化が期待されるとお考えですか?

井上

一番大きいのはデータ活用の部分だと考えています。Eコマースのニーズでいえば、映像のクオリティは今の回線速度でも十分だと思います。じゃあ5Gで何が変わるかというと、「大容量・多接続・低遅延」という特徴のうち多接続と低遅延が効いてくるのではないでしょうか。
例えばライブコマースで5万人が同時接続するとなると、現状の回線では難しいでしょう。また、視聴者のログインデータと掛け合わせて属性に合わせた商品を瞬時にプッシュする、といった動的な情報のやり取りも5Gなら可能だと考えられます。リアルタイムで個々の人に向けてカスタマイズされた情報提供、つまりパーソナライズ配信ができるということですね。

WIT

なるほど。大規模会場のファッションショーが丸ごとライブコマースになったりしたら、服を買う体験が大きく変わりそうです。

井上

はい。すでにセグメント化までは現在の技術でできているので、その中でパーソナライズされた情報と適切なコンテンツをリアルタイムでマッチングすることが5Gで可能になると期待しています。
我々としては、先ほどのようにバーコードを読み取って「TIG化」していた作業を画像認識で行うような情報処理も、5Gならば可能になるのではないかと考えています。Eコマースとは異なる分野ではありますが、現在は研究と実証実験を進めているところです。

WIT

Eコマースとリアル店舗がよりシームレスになる中で、「体験」としての買い物はどう変化していくと思われますか?

井上

その点でいうと、これまでEコマースで起こりにくかった「衝動買い」が起きるようになると考えています。店舗で買い物をしていて、予定にないものを買った経験はありませんか?

WIT

よくあります(笑)。これ美味しそうとか、安いから買っておこうとか。

井上

そうですよね。でもEコマースでの衝動買いは少ないと思うんです。

WIT

確かに…。Eコマースの場合、事前にアタリをつけておいてセールの時にそれだけ買ったり、同じ商品を他のオンラインショップと比較して安い方を買ったりします。

井上

それはデータにも出ていて、実はリアル店舗での買い物は約90%が衝動買いだと言われています。一方で、ECサイトでは約70%程度です。その差が何なのか考えているのですが、例えば店舗なら売り場に行けばいろいろなカテゴリでたくさんの選択肢が目に入る状態で並んでいます。そこで興味のあるものを発見する機会が生まれます。

WIT

カーディガンを買うならそれに合うシャツもついでに見てみる、というような。

井上

そうです。一方でEコマースは、基本的に1ページ1商品、レコメンドがあっても小さな写真だけだったりして、あまり発見がありません。これは衝動買いが起きにくい状態だと考えられます。

WIT

レコメンドが類似商品だと、比較はできても別カテゴリのついで買いは発生しにくいですね。

井上

はい。これに対して、動画は現実と同じように視野の中にたくさんの商品が出てきます。そこにTIGを用いれば、映像をタップしながら「これも合いそう」「こっちも気になる」と、カゴに入れていくような感覚で買い物をすることが可能です。
こうした予定外の発見が「体験」としての楽しさや便利さとして起きてくると思いますし、起こしていきたいと考えています。

認知から購入への橋渡しをするコンテンツへ
WIT

Eコマースにおける動画活用はこの先もいろいろな可能性がありそうですが、井上さんはTIGの技術でどんな課題を解決していきたいとお考えですか?

井上

最終的に商品を買うか買わないか、それを決めるのは商品そのものの魅力や購入ページのUIなどの要素もあり、TIGだけで認知から購入まですべて解決できるわけではないと考えています。一方で、TIGは、認知・ナーチャリング・コンバージョンというステップのうちのナーチャリング、つまり顧客にブランドの世界観や商品の価値を理解させてファンになってもらう手段としては、非常に効果が高いツールだと考えています。

WIT

これまで動画は認知のツールだったわけですが、ビジネスのオンライン化が進行する中で、認知とコンバージョンとの間を埋めるものが求められていますね。

井上

はい。それがいま、ホワイトペーパーやメルマガやオウンドメディアなどの、いわゆるコンテンツマーケティングとして行われていることですね。TIG動画ならナーチャリングのプロセスの中でニーズに合わせて知りたいものを知れる、興味のあるものを深掘りしていける。企業にとってはユーザーを育てることができるわけです。
こんなに素晴らしい商品がある、便利な機能があると、たくさんの情報を提示して、それが押し売りに見えてしまうとブランドイメージを損ないます。ナーチャリングでは、認知の段階以上に顧客の興味やニーズに寄り添った体験が重要です。そこが私たちの解決していける課題だと考えています。

WIT

ECを体験として楽しむ世界が実現しそうですね。ありがとうございました!

同じ商品を販売していても、ナーチャリングのあり方次第でブランド理解や誘発される行動が全く変わってきます。認知からコンバージョンへのステップをオンライン上でつくっていかなくてはならない時代。動画をいかに活用するかが、ますます重要になっています。

井上卓郎(いのうえ たくろう)さん
パロニム株式会社 COO。(https://www.paronym.jp/) 大阪大学経済学部卒業。ビジネスプロセスアウトソーシング企業に就職し、主に新規事業及び経営企画部門、法務部門を担当。ベンチャー支援事業で起業し、多数のスタートアップ企業をサポート。2017年よりパロニムの事業運営に参画し、取締役を経て2018年より取締役副社長。