動画で変わる、これからのEC

第1回 動画とECの2020年

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により経済活動が停滞する中、存在感を見せたのがECです。また、テレワークやイベントのオンライン化によりライブ動画が当たり前になるなど、人々とメディアとの関わり方も変化を加速しました。
数々のEコマース・マーケティング施策で成果を上げているインタラクティブ動画サービス「TIG(ティグ)」を提供するパロニム株式会社でも、今年はこの状況を背景にした案件が多く寄せられたといいます。現在の動画とECの関係について、同社COOの井上卓郎さんにお話を聞きました。

認知のツールから世界観が求められるコンテンツへ
WIT

近年、いろいろなビジネスで動画が当たり前に使われるようになる中、井上さんはEコマースと動画の関係をどうご覧になっていますか?

井上

Eコマースで動画が本格的に使われるようになったのは、デバイスや通信環境が相応のスペックになってきた2016〜2017年頃だと思います。そもそも人がものを買う前には、何らかの情報を知る、興味を持つ、検索する・比較する、というプロセスがあり、それを経た上で、オンライン上で購買されるのがEコマースです。その「知る」の段階が、人づての言葉に始まり、新聞などの文字情報、ラジオなどの音声、Webサイトの画像、そして現在は動画と移り変わってきたと考えています。
その意味で、動画が使われる場面は商品・サービス紹介、自社PRなどの「認知」目的が中心でした。それが、ここ1〜2年は視聴者がどれだけ世界観を楽しめるかという「質」の部分も重視されるようになってきたと考えています。

WIT

なるほど、単に企業が伝えたい情報だけ流しても見てもらえないわけですね。

井上

はい。それに若年層では「テキストを読まない」「検索しない」「スクロールしない」という傾向も知られています。ファーストビューしか見てもらえないとしたら、そこにテキストや画像を入れても情報量は限られてしまいますよね。でも、動画なら格段に情報量が多いですし、SNSなどへの拡散も期待できます。

WIT

もはや若者たちはスクロールすらしないというのは驚きです。YouTubeやTikTokなどではユーザー自身が発信し、コミュニケーションの場にもなっていますが、それも関係していますか?

井上

そうですね。ライブコマースはその流れにあるものだと思います。作り込まれた映像だと見る側も構えてしまいますが、自分たちに近い人が発信していれば親近感を持ち、情報へのハードルがグッと下がります。

ビジネスのオンライン化で「商圏」の概念が消える
WIT

そんな中で迎えた2020年、コロナ禍で消費者行動にも大きな影響がありましたね。

井上

はい。言うまでもありませんが、リアル店舗にお客さんが行かなくなりました。緊急事態宣言・外出自粛というやむを得ない状況もありましたが、お店で誰が触ったかわからない商品を触ったり買ったりすることに抵抗感を持つ人もいるなど、心理的なハードルもあったと思います。そのため、今までEコマースに取り組んでいなかった企業も、対応しなくてはどうしようもない状況に追い込まれました。

WIT

SNSでは地方の企業や組合がPRする様子をよく目にしました。飲食店ではデリバリーも急拡大しましたね。

井上

そうですね。ただ、リアルには「商圏」という、売る側にとっても買う側にとっても距離的な制限がありますが、オンラインにはその概念がありません。すべてが、質と価格で選択されてしまいます。これがオンラインでの競争激化を招き、これまで先行していた企業も含めて差異化や新たな工夫が必須になっているんです。

WIT

そこがECの厳しさですね。一方で、ユーザー側の行動には変化はあったのでしょうか?

井上

顕著に出ているのは、動画の視聴時間が伸びたことですね。SNSや動画プラットフォームへの接触機会は確実に拡大しています。

WIT

それは消費行動にも影響したと受け止めて良いでしょうか?

井上

そこは正直なところ、正確に計測できていないと思います。先ほど動画が「認知」に活用されてきたと強調したのはその点です。動画の制作や配信にお金をかけても、それでいくら売り上げが伸びたかというと、実は配信した期間と売り上げの変化を比べてみるしかない。きちんと定量的なデータ分析ができているかというと、実は難しいんです。

WIT

動画の再生回数や視聴完了率はわかっても、コンバージョンについては相関でしかないわけですね。

井上

そうなんです。おそらくこれが現在の動画活用における課題のひとつになっていると思います。

コロナ禍で必須となったビジネスのオンライン化。動画活用の場が広がる中、差異化と工夫の手段は? また動画そのものが構造的に持つ課題をどう解決していけばいいのでしょうか。次回は、いくつかのケーススタディから深く紐解いていきます。

井上卓郎(いのうえ たくろう)さん
パロニム株式会社 COO。(https://www.paronym.jp/) 大阪大学経済学部卒業。ビジネスプロセスアウトソーシング企業に就職し、主に新規事業及び経営企画部門、法務部門を担当。ベンチャー支援事業で起業し、多数のスタートアップ企業をサポート。2017年よりパロニムの事業運営に参画し、取締役を経て2018年より取締役副社長。