見込み客を育てるマーケティングオートメーション

第1回 属人的な勘とデータのいいとこ取りで顧客ファーストにアプローチする

マーケティングの施策を自動化する「マーケティングオートメーション」。名前は耳にするものの、その実態はいったいどんなものなのだろうか。アドビが提供するマーケティングオートメーション製品「Marketo Engage」の製品担当である虻川稜太さんに、その仕組みやキモとなる考え方を伺った。

二派に分かれるマーケティングオートメーション
栃尾

「マーケティングオートメーション」が注目されているようですが、私自身はまったく詳しくありません。その成り立ちや、CRMなどとの違いから教えていただけますか?

虻川

マーケティングオートメーション(以下、MA)は、20年前くらいからあるツールです。もともとはメールマーケティングの効率化という側面で発展してきました。例えば、相手の名前をメールに差し込めたり、見込み客のセグメントをして配信する機能がありました。

栃尾

メール配信から発展したというのは、イメージしやすいです。最近になって流れが変わってきたのでしょうか?

虻川

我々が扱っている「Marketo Engage」という商品は、2006年に創業したメーカーが提供しているソリューションで、どちらかというとCRM(Customer Relationship Management:顧客管理)寄りです。海外では見込み顧客向けのコミュニケーションを自動化し管理するという意味で、「リードマネジメント」とくくられることもあります。

栃尾

現在は、メールだけにとどまらない施策を含めてMAと呼ぶのですか?

虻川

現在も二派に分かれていますね。MAツールの中にも、メールの配信効率化の機能しかないものもあります。

栃尾

メール施策の部分は、20年前からあるならずいぶん洗練されているのでしょうね。そのうえで、これから発展の余地が大きいのがCRM寄りのMAということなのでしょうか。

虻川

そのとおりです。BtoBなどは今でも営業員が必要な業種は多いと思います。それらの業種においても、デジタルで関係を構築することの必要性が高まってきています。そのため、メールマーケティング機能だけではなく、むしろCRM寄りのMAが注目されているのでしょう。

栃尾

逆に、CRMだけを行うツールでは足りない部分が多いということなのでしょうか。

虻川

営業員の人数を減らしてシステムによって効率化をしたいという流れの中、単に顧客データを管理するだけで、具体的な施策やアクションが自動化されていないと、結局なかなか効率が上がらないという背景があります。MAとCRMを分けて考えるのではなく、CRMの中のひとつ、と捉えていただいた方がいいかと考えています。

リードジェネレーションとリードナーチャリングの重要性
栃尾

具体的には、MAはどのような部分を担うのでしょうか?

虻川

カスタマージャーニーマップのようなものをイメージしていただくとわかりやすいかもしれませんが、見込みのお客様(=リード)に効果的にアプローチして、ニーズを高めてもらう施策をします。その際に、リードジェネレーションとリードナーチャリングという2つのフェーズ分けが重要になります。

栃尾

その二つについて教えていただけますか。

虻川

リードジェネレーションは、見込み客の獲得です。つまり、顧客の情報を得るまでの活動です。一方、リードナーチャリングは、取得した顧客のマインドをコントロールしていき、製品やサービスへの関心や、検討の度合いを高めいてもらうためのフェーズになります。

栃尾

見込み客を育てていくようなイメージなんですね。

虻川

もちろん「成約」をゴールとして進めていきますが、それだけでなくロイヤルカスタマーと呼ばれる優良顧客や熱量の高いファンを作ることも大切です。

栃尾

どの企業も実現したいことですよね。

虻川

そのためには、よりよい顧客体験を提供したり、お客様が求めている情報をタイミングよく供給して「自分のニーズをわかってくれている」と思ってもらうコミュニケーションが大事なんです。

栃尾

そのために、一人一人に細分化された、よりパーソナルなデータの管理が大切なんですね。

虻川

マスに向かって情報を発信する広告やPRなどは、個々人にマッチした情報提供ができません。リードジェネレーションのフェーズで多くのお客様の情報をいただくことが大事なのはそのためです。マスに対して広く接点を増やしていくことももちろん疎かにはできませんが、昨今のデジタルやデータドリブン領域の進化により、確かなお客様をしっかりと囲い込むことに注目が高まっています。

SEOやメルマガ、アプリなど、施策を戦略的に組み合わせる
栃尾

よりイメージしやすいように、それぞれの施策の具体例を教えていただけますか。

虻川

リードジェネレーションは、SEOやコンテンツマーケティングなどがあります。最近では、SNSなどのアーンドメディアもそうですね。認知の獲得から、顧客情報の獲得までを行います。

栃尾

リードナーチャリングについてはどうですか?

虻川

メルマガやアプリなどを使って、より踏み込んだ情報を提供します。リードジェネレーションで挙げたコンテンツマーケティングにも結び付いているものですが、お客様に能動的にアクセスしてもらうより、企業側から有益な情報をPUSHしていく活動です。特に、配信コストがあまりかからないメールはとても重要な打ち手と言えます。

栃尾

なるほど。MAが向いている業種や業態はあるのでしょうか?

虻川

ひとつには、不動産や自動車など、購入までの検討期間が長い商材があげられます。お客様が「何がいいんだろう……?」と調べるようなものですね。あるいは、金融機関や化粧品など、検討期間は短くても、ファンになって継続的に使うものは相性がいいと思います。

栃尾

不動産や自動車は、営業員の方が「担当者」として付くイメージです。属人的なコミュニケーション業務をシステム化することで効率化していくのですね。

虻川

そうです。例えば、販売店に来てくれた人には3回メールして、反応がなければDMを郵送するなど、デジタルとリアルの垣根を越えて複数の施策を組み合わせていきます。この辺はとても属人的な領域と言われていて、MAを入れる前は、「できる営業マン」の勘と経験を頼りにやっていたところなんです。一方で、マーケティング的な考え方だと「一斉に送って〇パーセントの反応があったから成功」といった数値で良し悪しを判断していきます。MAはその中間。属人的な勘とデータの両方の側面を持っている。まさにいいとこ取りと言えますね。

栃尾

勘や経験とデータをシステム化して、人海戦術を使わずに施策を自動化できるようになると……。

虻川

そうですね。優秀な営業マンの経験と勘をツールの中でナレッジ化し、データドリブンなマーケティングの施策を購買や成約に近くしていくイメージです。

メールマーケティングから発展したマーケティングオートメーション。現在ではCRMと密接にかかわり、成約まで顧客を育成していく機能を持つ。属人的な営業マンの勘と経験をシステム化して、顧客の繊細なニーズに応えていくのだ。次回は、リードナーチャリングの重要性について、より深く伺っていく。

虻川 稜太さん
アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングスペシャリスト
新卒で入社した精密機器メーカーで放送機器のプリセールス・営業に従事した後、2017年に当時の株式会社マルケトに入社。インサイドセールスとして年間200件以上の商談創出に貢献。現在はMarketo Engageを中心とした製品におけるデジタルマーケティングならびにフィールドマーケティングに従事。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも