Webメディアやポッドキャストなど、自ら精力的な発信を続けているデザイナーの長谷川恭久さん。大企業からの依頼も多いが、「このように発注してもらえると効果的」というおすすめがあるという。また、特に大切にしているのはステークホルダーの理解だ。実は、人間関係や交渉事で、課題解決のコストは大きく変化してしまう。プロジェクトをスムーズに進めるうえで、欠かせない部分を伺った。
やり方からしっかり相談した方がむしろ低コスト
企業がUI/UXデザイナーさんに依頼をする場合、どんな発注の仕方をするといいんでしょうか。
手段を目的としないほうがいいとは説明しましたが、「Webサイトを作りたい」と手段を決めすぎない方がいい。「課題があり、解決のためにWebサイトを作るのがいいと思っているけどどうですか?」と相談していただくのがいいと思いますよ。
Webサイトを作るつもりだったけど、解決策は違った、というケースがあるんですか。
多分にありますよ。調査をして違うとわかれば、こちらから別の提案をします。例えば営業の方が提案しやすくなるようガイドブックのようなものを作るというケースもあります。
発注側としては、ぼやっとした状態で相談するのは費用面が気になるのではないかと思うんですが……。
確かに予算をどう決めるかは難しいですよね。ただ、コストのとらえ方にもよります。「Webサイトを作る」と決めて発注すれば一見安いかもしれませんが、成果が出なかったらむしろ高い買い物です。それよりも、抜本的な解決を求めて時間をかけてやるほうが結果的には安くなるとも考えられます。
確かに、効果が出なかったらお金を捨てているようなものですね。
僕の場合で言うと、相談してもらえれば、そもそもの課題は何か調査をして、仮説を提案した上で何を最初にすべきかお客様と一緒に考えます。Webサイトという提案をして、たとえ成果につながらなかったとしても、課題や仮説があればうまくいなかった理由を学習できますよね。でもただやみくもにWebサイトを作ろうと決めて実施しただけだと、何が悪くて何がよかったのかわからない。
例えば「ニュースサイトを作る」という施策自体は間違っていなくて、ディテールが間違った場合でも、検証できないということですね。
そうです。「ニュースサイトはダメ」という結論になってしまうのはちょっともったいないし、学びがない。もっと細かく、何がダメだったのかわからないと。
積み重なっていかないですね。
たとえ失敗してたとしても、学びのあるプロセスがあればサイトだけでなく運用しているスタッフのスキルアップに繋がると思うんです。
経営者やマネージャークラスの理解を得ておく
他に、発注時の注意点はありますか。
ステークホルダー(決裁者)とのコミュニケーションは先に握っておいてほしいです。
コスト面が関係してくるということでしょうか。
費用はもちろんですが、新しいチャレンジへの理解が必要だと思っています。やろうとしているゴールに理解があり、あわよくばバックアップしてもらえることが大事ですね。
ステークホルダーというと、経営者などの権限のある人、ということでしょうか。その方たちに万が一反対されると、大きな人的コストがかかりますよね。
大企業なら経営者に入ってもらうのは難しいので、部長クラスでもいいとは思います。その方の理解を得ていないと、プロジェクトがかなり進んだ後にひっくり返ることもあるので……。
それは悲しい……。
ステークホルダーの合意やサポートがあるほうが、デザイナーもやりやすいですよね。
デザイナーに自由があるということですか?
デザイナーに限らずプロジェクトに関わる全員にとってメリットです。コミュニケーションの交通整備がされていると、誰が何を決めて進めるのかハッキリする。「この課題を解決するために作っている」と「よくわからないけれど言われたとおりに作っている」では、モチベーションが大きく違います。
確かに。それはそうでしょうね。
「ただ言われたとおりにものを作る」って、できないわけではない。でも、課題と合っていなければ、結局担当者もステークホルダーも評価されないのでもどかしいんです。だから少し遠回りになっても、組織や部門間などの課題解決をしてからのほうが、結果も出ますよね。
新しいチャレンジには、周囲の理解や協力が不可欠となるが、特に大切なのが決裁権のある人を巻き込むこと。プロジェクトを途中まで進めておいて、一人の一存でひっくり返されることもあるからだ。邪魔はせず、できればサポートをしてもらうような関係性を取り付けてから仕事をデザイナーに依頼するとうまくいく。
長谷川恭久さん
Webサイトやアプリの設計や運用のサポートに携わるデザイナー/コンサルタント。日本各地でデザインに関する様々なトピックを扱った講演やワークショップを行っている。著書に『Experience Points』『Web Designer 2.0』など。
栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも