UXデザインで変わることと変わらないこと

第1回 UI/UXデザインに対する大きな誤解

UI/UXのセミナーなども開催している長谷川恭久さんをお迎えして、全4回で「伝える・広まる」デザインを考えていく。UIはともかく、UXは、ぼんやりとしていてよくわからないという印象を持つ人も多いのでは? そこで、長谷川さんにUI/UXとは何なのか、というところからお話を伺った。

「UI/UX」は意味が広すぎる?
栃尾

長谷川さんのお仕事について簡単に教えていただいていいですか?

長谷川

そうですね……。簡単に言うと、組織内の問題解決をしています。部署間の連携や、組織の戦略、プロダクト開発におけるデザインプロセスの整備などですね。

栃尾

肩書は、どのようにしているんですか?

長谷川

「デザイナー」にしています。さまざまな提案を、デザイナーの視点でやっています。UIをデザインツールで作るというより、組織がスムーズに動くためのデザインをお手伝いしています。

栃尾

「UI/UXデザイナー」じゃないんですね? 組織などのデザインもするからですか?

長谷川

それもあります。またUI/UXという言葉自体が、意味が広がり過ぎたり、人によって解釈が違ったりするのでかえって誤解を生み出してしまいます。

UIデザイナーは「作る人」、UXデザイナーは「課題定義をする人」
栃尾

そうなんですね。そもそも、「UI/UX」ってまとめて語られがちですが、どう違うのでしょうか?

長谷川

私の解釈で説明すると、UXデザイナーは課題定義をする人で、UIデザイナーは作る人。

栃尾

そんなに全然違うんですね。UIデザイナーはわかりやすいですが……。

長谷川

UXデザイナーという立場で仕事を請けるときの難しさはそこ。クライアントはデザイナーに何か作ってもらいたいと期待する人が多いわけです。

栃尾

そうですよね。作るものが決まっていないと依頼できないんじゃないかと思います。

長谷川

でも、デザインにおける課題は、作る前にたくさんあるケースが多いんですよ。

栃尾

例えばどんなことですか?

長谷川

本当は、「売上を上げたい」「IT部署がWebサイトを管理している状態をなんとかしたい」「オンライン・オフライン共通の戦略を設計したい」など、作る前に決めておかなければいけない目的があります。ところが、「web サイトを作る」という手段を目的にしてしまい、本来の課題・目的を見失っているケースが多い。

栃尾

なるほど。ひとつの視点ではなかなか見えない部分かもしれませんね。

長谷川

作っただけで結果に貢献できなかった経験があるので、だんだん組織に入って問題解決をするようになってきたんです。

UXの範囲が広すぎて一人ではまかなえない
栃尾

でもUXって、「ユーザーエクスペリエンス」ですよね。それならユーザーを見る方が主だと思っていたのですが……。

長谷川

私の場合は「ユーザー」というより「人」と解釈しているところがあります。プロダクトを利用するユーザーがいいようにデザインをしても、事業が回らないと利益が生まれず、継続できません。開発者や担当者が目的をきちんともって作らなければ良いものが作れない。プロダクトを取り巻く様々な人たちの課題を解決しなければいけないんです。

栃尾

確かにそうですね。そうなると、UXデザイナーって膨大なスキルが必要じゃないですか?

長谷川

私の UX の仕事は、 UX のほんの一部に過ぎないほど範囲が広いんですよ。そのために、関係者内で誤解が生じてしまいます。『誰のためのデザイン?』の著者として有名なD.A.ノーマンさんが、「ユーザーエクスペリエンス」を商品だけでなく、店頭にどのように置かれて、どのように自宅に運ばれて、どうやって箱を開けるか、という体験すべてをUXであると説明しました。彼が説明する UX をそのまま受け止めると UX デザインの仕事はありとあらゆることを考えて作る必要があるように聞こえてしまいます。実際そうである必要はないですが、根本的な課題を見つけ次のステップを考えるところは、どのタイプの UX デザイナーにも共通していると思います。

栃尾

「考える」というと、クリエイターよりコンサルティングに近いように聞こえますね。

長谷川

そう。UX という言葉がもつ意味が広すぎるからUX デザイナーの業務って何なの? と考えると途端にわからなくなってきますよね。いろいろな手法やUIデザインがセットになってしまうと、余計ひとりでは回らなくなってしまいます。

長谷川

そうなると、業務をもう少し分解するのが現実的なんでしょうか?

長谷川

最初はひとりでやらざるをえないですが、UXの担当はチームでないと難しい。従業員が50人を超える規模の企業なら、複数のUX担当者を配置してチームとして機能させないとだめでしょうね。全部できる人を求めがちですが、そんなことができるのは超優秀な一握りの人たちだけだし、それではいつまでたっても大きくなれないんです。

長谷川さんは終始「僕の解釈では」と付け加えてくださったが、UIデザイナーとUXデザイナーは、まったく違うのだ。中でも、UXデザイナーの範囲は広くとらえられがちなうえ、スキルや考え方は人によって異なるため、相談をする企業側も把握しておかなくてはならない。次回は、「UI/UXは魔法のツールではない」ということを、シビアに語っていただく。

長谷川恭久さん
Webサイトやアプリの設計や運用のサポートに携わるデザイナー/コンサルタント。日本各地でデザインに関する様々なトピックを扱った講演やワークショップを行っている。著書に『Experience Points』『Web Designer 2.0』など。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも