未来に接続するクリエイティブ思考

第2回 プロトタイピングを通じて未来を手元に引き寄せる

REDD inc.代表取締役の望月重太朗さんが重きを置いているのは「プロトタイピング」だ。プロトタイピングとは、未知のものを現象化することだという。その詳しい内容とプロトタイピングの重要性について紹介する。

プロタイピングとは「現象化」すること

プロトタイピングの重要性を語るうえで、望月さんご自身の子どもを例にとって説明してくれた。スクリーンには、ハンモックと望月さんのお子さん。普通のハンモックの使い方のようにゆらゆらと揺れるのではなく、裏返して腕をひっかけて左右に走ったり、ミノムシのように包まったりしてまったく想定外の遊び方をしている。

また、縁日や駄菓子屋さんで売っているような息で伸び縮みする笛の玩具を手にすると、最初は口で吹いて遊ぶものの、時間がたつと鼻で吹き始めたという。

「使い方を知らない子どもから見ると、ハンモックや笛の玩具ではなく、“未知なもの”が転がっているだけなんですね。簡単に遊び方を教えてもらえることもあるものの、たいていは自分で試しながらあたらしい遊びをみつける。それは、未知のものを通して子どもの世界が広がることなんです」

それは、テクノロジーも同じだという。ハンモックや笛の玩具をテクノロジーに置き換えると、目の前に未知のものが転がっているだけ。それを手に取りいろいろ試して新しい活用を見つけることで、世界が拡張するのだという。

「さまざまなことを試すには“現象化”することが必要です。手を動かして、とりあえず形にしてみることで、世界が拡張し、手元に未知なるものが引き寄せられる感覚になります。自分たちでプロトタイプを作ることは、未知世界との接触点を作ることなんです」

プロトタイプとは、試作品のこと。さらに試作とは、現象化を意味する。現象化することは、未知なる世界との接点を作るほかにもうひとつ大きな意味がある。

未来を手元に寄せるバックキャスティング

望月さんは未来との関わり方についてバックキャスティング発想を重視しているとのこと。未来がこちらに近づいてくるわけではなく、自分たちで未来に歩み寄り、触れた瞬間に形作られるものだという。

「長期的な未来を見たときに、シンギュラリティや食糧危機、人口増加のバランスなど、ある程度予想されているものがあります。2045年にシンギュラリティが起こると予想されているときに、では2040年はどうか、2035年は……と逆算して考えていくことをバックキャスティングといいます。起こりそうな事柄に先に手を出し、現象化していきます」

望月さんが手がけていることは「仮説」を基にした新しいこと。そのため、確度の高い未来予想から逆算していくことで、仮説の確度も上がるという算段だ。

このような現象化を通して未来に接触できる形を作れば、「一緒に働きたい」と考える人が現れたり、リクルーティングに効果があったり、投資したいという人が現れたりするかもしれない。そうやって、新しいビジネスが生まれていくことも大いにあるという。

プロトタイピングを軸にした思想で注意したいのは、「完成」を目指さないこと。例えば、昨今ではサービスとして盤石の地位を築いているデジタルプラットフォームの巨頭たちも、何度も変更を重ねて完成度を高めてきたという。望月さんが例に出したのは、TwitterやAirbnbがスタートした当時のWeb画面。スライドに映し出されたデザインは洗練されているとはいいがたく、多くの人が「ダサい」と感じるものであるだろう。しかし、そこから一時代を担うサービスがスタートしたのだ。プロトタイピングは最初からいきなり完成形を目指すのではなく、不完全なものを世に問いながら、柔軟な視点を持って育てていく覚悟が大切なのだ。

プロトタイピングによって「仮説力」「制作力」「サービス開発力」がつく

望月さんをはじめとするプロジェクトメンバーは、プロトタイプを作ったことで次の3つの力がついたという

  • 仮説力
    「こんな未来が訪れそうだ」という可能性を、知識として見聞きしただけでなく、自らの実績や実験で語れるようになる。「ここまではいけない」「こういうニーズがある」と語るときに、手元の情報や実感値をベースに仮説を立てることができ、説得力を生みやすい。
  • 制作力
    一般的なフロントエンドプログラミングスキルだけでなく、ハードウェアの知見がたまる。それにより、作れるものの幅が広がる。まさに、PechatはWebエンジニアがハードウェアの技術を学んで制作した。
  • サービス開発力
    サービスを販売するためには、コンセプトやビジネスモデル、プロトタイプを作り、量産や販売プランを策定し、流通に乗せる必要がある。さまざまなフェーズにタッチできることで、ビジネス化できる可能性が高まる。開発から消費者がプロダクトに触れるまで全体的な流れが俯瞰で見れるようになるので、何かの相談を受けたときに、その道の知見を持った人を紹介することができたり、必要なポイントがどこにあるのかが見えるようになる。

プロトタイピングを何度も繰り返すことにより、自分から未来を手元に引き寄せて接点を作ることができる。出来上がったものだけでなく、自らにも知見がたまっていくのは多大なるメリット。その繰り返しを通してわかったこととして、特に大事なものは「インターフェース」だという望月さん。次回は「インターフェース」の定義から、成功させるための秘訣を伺っていく。

望月重太朗さん
REDD inc. 代表取締役、Creative Director、Designer。UMAMI Lab 主宰。デザインR&Dをテーマに、サービス/プロダクト開発、デザイン戦略開発、クリエイティブ教育の開発、海外との協業によるメソッド開発など。