未来に接続するクリエイティブ思考

第4回 デザインとは、本質を見据えて複雑なものを整えること

独自のフレームワークやクリエイティブ思考を提唱する望月重太朗さんのセミナー。第4回目に紹介するのは「デザイン」。見た目だけでなく、より広義の「デザイン」だ。人に「欲しい」と思ってもらうためには、とても重要な要素となる。加えて、プロトタイピングを進めるうえで避けては通れない「失敗」について、失敗の避け方や、よい失敗の仕方を教えてもらった。

本質を見据え、複雑なものを整えるのが「デザイン」

第3回までで、人とモノの接触点をインターフェースととらえて、その部分に未知のものと既知のものを合わせてプロトタイピングを作り、現象化することを紹介してきた。ただ、「これだけでは不十分」と望月さんが言う。最後のひとつは「デザイン」だ。

例えば、未知と既知を組み合わせた例として「仮に、僕が『The Greatest Bitcoin Spinner』という商品を作ったとします」と望月さんが切り出す。ビットコインの相場の額面だけ回転するIoTハンドスピナーという架空のアイデアだ。これまでに話した、「既知のものと未知のものをインターフェースとして現象化したもの」という条件はそろっている。ところがほとんどの人がこれを目にしても「で、何? どこが楽しいの?」という感想を持つに違いない。

「ここに足りないのはずばり、“共感”です。共感こそが、インターフェースと使い手の間にある“境界”を溶かしていきます。そして、共感を作るのは“デザイン”です。デザインとは見た目を作ることのようにとらえられることもありますが、本来は『本質を見据え、複雑なものを整える』ものなのです」

例えば、プロジェクトマネージャーがスケジュールをまとめたり、保険の販売員がわかりにくい保険の情報を整理して伝えたり、コミュニケーション設計のプロセスを作ったりする。それらすべてが「デザイン」と言えるのだ。

「価値」に着目する

人々が共感を感じるときには「自分に足りなかった」という気づきがあるもの。その気づきこそが、インターフェースによる接着を強固にするのだという。デザインを使ったアプローチで共感を得ようとするならば、重視すべきは「価値」だ。

「価値とは、イコール“値打ち”です。対価を払ってでも手にしたいものですね。対価とは、自分の時間やスペース、自分が持っているモノかもしれません。いずれにしても、自分が持つ何かを払うに値するものです」

その価値にも流行がある。「モノ消費」「コト消費」と続き、現代は「トキ消費」と言われている。白物家電や車など、高度経済成長期に豊かさの象徴であった「モノ消費」、2000年前後からフェスやキャンプといった体験価値の高いものに注目が集まった「コト消費」と続いた。

その先である現代の「トキ消費」では、時間をかけてプロセスを楽しむことに価値が置かれている。例えば、アイドルを売れない頃から応援し、成長プロセスを楽しむ。また、開発前の製品から応援するクラウドファンディングなどもその流れだ。

「プロセスを楽しむ人は、背景やストーリーを大事にします。例えば、売り上げの一部を環境保護に使っている、という背景があるなら、それを伝えると共感が生まれるのです」

「Why」「What」「How」で共感を作る

共感やストーリーを作る際、大事にしたいのは、「Why」「What」「How」をこの流れで考えること。それぞれは、次のような位置づけとなる。

  • Why
    なぜあなた(の会社、チームなど)はこのプロジェクトをやっているのか?
  • What
    そのプロジェクトがもたらす新しい価値は何か?生活がどう変わるか?
  • How
    それはどう実現しているか?どんなものか?

望月さん曰く、言い換えると、Whyがテーマになり、Whatがポテンシャルやバリュー、Howはプロダクトとなるとのこと。

プロトタイピングではHowの話が中心になりがちだが「最新のAI技術を使った……」といった技術やスペックの話では共感を生むことはできない。世の中に必要な理由(Why)を考えたうえで、現象に接続していくとチームが強くなり、よいクリエイションにつながっていく。

失敗しそうなときに、選択肢を増やす考え方

最後に、望月氏はプロトタイピングを進めるうえで欠かせない障壁について語った。何かを現象化する際には、初めてのことであるだけに、「失敗」や「失敗に対する恐れ」がつきものとなる。そんななかで、失敗をできるだけ避けるための考え方を紹介した。

「目の前に断崖絶壁が立ちはだかった」というようなピンチの時、我々は「そのまま突き進むか」「撤退するか」という選択肢に囚われがちだ。ところが、それでは選択肢が少なすぎるという。選択肢を増やすためには、次のような4つの観点から物事をとらえるとよい。

1.「準備が足りない」というのは、「タスクが多すぎ」と考える
2.「スキルが足りない」というのは、「レベルが高すぎ」と考える
3.「リソースが足りない」というのは、「お金や人が少なすぎ」と考える
4.「時間が足りない」というのは、「締切近すぎ」と考える

失敗しそうな理由を分解することで、問題が見えてきたら、それぞれの対処法を考えることができる。それによって選択肢がいくつも増えることになるのだ。失敗の道筋をひとつ一つ潰していき、残った選択肢をブラッシュアップしていけば、成功への複数の道筋が見えてくる。失敗を予測して対処しようとした経験や知識は、いい経験として次のクリエイションに活かすことができる。失敗を恐れず味方にすることがチャレンジには大切だと望月さんは言う。

数多くの先進的なプロトタイピングを通じて、望月さんはインターフェースのコツやデザインの重要性などに法則性を見出した。3つ目に語った「デザイン」の力は、値打ちを感じさせ、ストーリーの力で共感を得ることで、それにより人との接点を強固にしていくという。もし、今の事業に閉塞感を感じているなら、今回のセミナーを参考に、R&Dやプロトタイピングを少しずつでもスタートしていくとよいかもしれない。

望月重太朗さん
REDD inc. 代表取締役、Creative Director、Designer。UMAMI Lab 主宰。デザインR&Dをテーマに、サービス/プロダクト開発、デザイン戦略開発、クリエイティブ教育の開発、海外との協業によるメソッド開発など。