顧客理解を深めるCXとコンセプトダイアグラム

第2回 顧客の心理がわかるカスタマーアナリティクス

ひと昔前のアナリティクスでは、何かの施策により成果が出たとしても、「なぜ」の部分まではわからなかった。それは顧客の顔までを理解できていないためだ。顧客を理解して施策を打つための「カスタマーアナリティクス」の考え方やデータの扱い方を、前回に引き続き清水誠さんにレクチャーしてもらった。

カスタマーアナリティクスの定義は

1回目で紹介したカスタマーアナリティクスには、さまざまな定義がある。Wikipedia、SAS、Gartnerそれぞれの定義を紹介。

・顧客データを活⽤しセグメントや予測分析を⾏うことで、ビジネス上の意思決定につなげるプロセス(Wikipedia)
・関連度が⾼く望ましいオファーをタイムリーに顧客へ提供するために必要な顧客インサイトを得るためのプロセスとテクノロジー(SAS)
・顧客の構成要素、ニーズや満⾜度を理解するためのデータ活⽤(Gartner)

「簡単に言うと、データで理解して意思決定につなげるという意味です。昔のように費用対効果を狙ったり、レポートを作ったりという目的ではなく、顧客を理解し、よりよい顧客体験を提供するという定義となります」

ひとことで言うと、次のような定義だという。

「(ページや施策ではなく)顧客の視点でデータを取得&活⽤し、顧客の理解に基づく良い顧客体験を実現するための⽅法論」

ECサイトで「検討スコア」を集めるデモを実施

具体例がある方がわかりやすいため、清水さんは、自身で作ったデモページを動かして解説する。

これまでのアナリティクスでは「どの商品が何回見られてから買われたのか」という入口と出口を見るケースが多い。「100PVのうち、新規は6割で、そのうち3人が購入した」とすると、割り算をしてコンバージョン率を見るのが信じられてきた。ところが、顧客の気持ちの変化を知るためには、買うまでのアクション(行動履歴)を追いかける必要がある。

見せてくれたデモサイトは、商品写真の切り替え、お気に入りへの登録など、さまざまなアクションをするたびに「検討スコア」の得点が増えていく仕組み。わかりやすいように、右上に通知が出るようになっている。例えば次のようなアクションをスコアリングできる。

・ページを開く
・商品写真を切り替える
・写真を一定時間以上拡大する
・種類やサイズをプルダウンから選ぶ
・お気に入りに登録する
・説明文を一定時間以上表示する
・レビューを一定時間以上表示する

これらのアクションは、すべて商品を検討したとみなし、そのスコアを取ることで顧客の心理を把握するのだ。

また、別の行動では「関連商品をクリックしたら、探したい気持ちが強い」「レビューを書くためのボタンを押したら、すでに商品を持っている」など、別の顧客心理を予想できる。

データを見る際の注意点

清水さんは、検討行動を追加したレポートを画面に表示し、見方を説明する。

「例えば、PV数、検討スコア、購買数も多い商品は順調です。ところが、検討スコアが高いのに売れていない商品は何かがおかしいと考えられます。じっくり見られているのに買われていないということは、レビューの内容が悪い、写真のクオリティが低いといった可能性があるでしょう。値段が高すぎるのかもしれません。逆に、検討スコアが低いのにたくさん売れている商品は、迷わずに買われたことになり、これはこれで問題。価格の設定が低すぎて爆買いされていたり、本来はもっと市場価値が高かったりするのかもしれません」

このように、購買行動の途中データを紐解くことで顧客理解が進むというわけだ。

「これは、デザイナーやディレクター、クリエイターとして普段から顧客の行動を想像している人の方が得意でしょう。制作の際に想像した顧客をこういう風に行動させたいという理想形をそのままアナリティクスに反映すればいいわけです」

入口と出口だけでなく、その間の行動データも取得して、顧客の心理を把握する。それにより、顧客を理解した上での施策が可能になるのだ。次回は、カスタマーアナリティクスを実際に使っている企業の実例を紹介する。

清水誠さん
Webビジネス歴25年。UXとIAの分野を開拓後、楽天やWebCrewなどの事業会社においてIT・UX・アナリティクス活用による社内デジタルトランスフォーメーションを推進。2011年に渡米し、プロダクトマネージャーとしてAdobe Analytics(SiteCatalyst)の企画・開発・啓蒙に携わる。2014年に帰国し独立。データを活用した顧客理解とUX構築を普及すべく、コンセプトダイアグラムとカスタマーアナリティクスを模索中。2013年Web人賞受賞。株式会社電通アイソバー CAO、株式会社ナイル 戦略顧問、株式会社b-unit 代表取締役。