顧客理解を深めるCXとコンセプトダイアグラム

第3回 実例で知るカスタマーアナリティクス

第2回で紹介したデモはECサイトだからわかりやすかったが、ECサイトではない場合にはどうなるのか。実際の企業の例を紹介しながら、清水誠さんに説明してもらった。

ECサイトではない場合の指標の作り方

セミナー参加者からの質問に沿って、ECサイトではない事例を紹介していく。例えば、BtoCの場合や、継続的なコンテンツを提供して囲い込みを狙うようなケースについて質問された。

清水さんが紹介したのは、企業のオウンドメディア。ブログのような形式で、たくさんの記事が掲載されている。

「記事を閲覧した時に、日付や著者名、タグなどの情報がカウントされます。例えば、Googleタグマネージャーのカスタムディメンション機能を使えば、情報の鮮度が確認できます。今日なのか、数日前か、3年前かといった情報です。顧客によって、最近の記事ばかり読む人、『AI』といった特定のトピックで読みたい人などさまざま。後者のような人は、数年前の記事でも読むことがあります」

経過日数の古い記事のアクセスが増えてきたら、リライトしてコンテンツを再利用したり、サイトのトップに掲載したり、ポップアップなどでお勧めしたりと、埋もれた記事を活用することにもつながる。改善につながるデータを設計してGoogle Analyticsの実装をカスタマイズすることが大事だという。

記事の形式がさまざまな場合の指標の作り方

先ほどのブログ形式のオウンドメディアでは記事の形式がある程度決まっていたが、動画や記事、キャンペーンなどさまざまな情報が掲載されているサイトではどう考えればいいのだろうか。参加者からの質問で上がったサイトの事例は、購買がゴールではなく、会員獲得にKGIが設定されたサイト。実際に開いてみると、数多くの商品を展開している企業の例だった。

「購買を直接のゴールとせず、その中間に他の狙いを定めているケースは多いです。ある商品を目当てにサイトを訪れた人に他の商品を知ってもらえば、企業理解が広がります。この場合は『広がりのスコア』が良いでしょう。見たことのある商品の種類数がデータでとれますから、これが増えるほどに広がりがあると捉えます」

また、企業理解という意味では、企業理念のページの精読をスコアとしてもよい。訪問者の関心の対象が商品から企業へと徐々にシフトしていく様子を数字で把握することができるようになる。

「例えば、好きなタレントが登場する動画を2週間に1回見ていた人が、数ヶ月かけて企業や商品に対する理解度や広がりスコアを高めつつ訪問頻度が3日に1回になった、という変化をぱっと見で理解できるガントチャート的なビジュアライズも可能です」

これらは、必ずしもサイトにログインさせて顧客IDと結びつかせなくても、Cookie(クッキー)でも捕捉することはできる。他にも、さまざまなタッチポイントによって接触頻度と関係性を強め、企業や商品の理解を徐々に深めてもらいたいのであれば、長期的な視点で継続的にレポートをウォッチする必要がある。

理念を達成するために育てたい理想的な顧客を決める

長期的なレポートを作成する例として、カタログギフトを商品としている企業の例が出された。これは、ひとりひとりの顧客について3年間の購買を追いかけたものだ。途中でさまざまな検証を重ねた結果、もっとも会社にとって望ましい顧客像を考え直したという。

これまでは、伝統的にLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)や単価、購買頻度といった伝統的なデータで顧客のランクを見ていた。

「新たに望ましい顧客とされたのは、結婚してお祝いのお返しにカタログギフトを使い、1年後に出産で使い、その後職場での贈り物、母の日、父の日……と、さまざまな用途で贈り物をする習慣が広がるような人。さまざまな場面で感謝の気持ちをカタチにして、回数を重ねていく人をロイヤルカスタマーと定めたんです」

その企業は、理念として「感謝の気持ちをスムーズに示せる人を増やす」ということを掲げていたため、理念に沿った顧客がより望ましい顧客としたのだ。

望ましい顧客像が定まれば、まだ活用方法が広がっていない顧客を対象に、まだ利用されたことのないサービスを勧めたり、ギフトマナーについてのメールを送るといったパーソナライズされた施策ができる。より多面的で深い顧客理解に基づいて、情報提供や提案、販売などのコミュニケーション、つまり良質の顧客体験を提供できるようになるのだ。

こういった施策の対象となるような優良顧客の人数やポテンシャルを理解するためには、まず調査結果から、顧客のパターンを「○○な人」といくつかのタイプに分類し、その分類ごとにGoogle Analyticsの「セグメント」を設定する。セグメント単位の行動状況を定量的に把握して、変化の可能性を予測し、優良顧客を発見していく。先ほどのカタログギフトの事例であれば、「結婚したばかりの人」にターゲティングすることで、企業理念にマッチした望ましい顧客の創造と維持につながる。

顧客がどのような表情をしているのか、コンテクストを知ることが最も重要。顧客を知り、顧客と向き合うことがロイヤルカスタマーを育てる近道だ。次回は、いよいよ本セミナーの本丸である「コンセプトダイアグラム」を紹介。カスタマーアナリティクスの視点に立ったフレームワークを使い、顧客の体験シナリオの描きかたを解説する。さらに、セミナー参加者と共に行ったワークもレポートする。

清水誠さん
Webビジネス歴25年。UXとIAの分野を開拓後、楽天やWebCrewなどの事業会社においてIT・UX・アナリティクス活用による社内デジタルトランスフォーメーションを推進。2011年に渡米し、プロダクトマネージャーとしてAdobe Analytics(SiteCatalyst)の企画・開発・啓蒙に携わる。2014年に帰国し独立。データを活用した顧客理解とUX構築を普及すべく、コンセプトダイアグラムとカスタマーアナリティクスを模索中。2013年Web人賞受賞。株式会社電通アイソバー CAO、株式会社ナイル 戦略顧問、株式会社b-unit 代表取締役。