品質向上に繋げるデザイン指標の作り方

第2回 具体的なデザイン指標の立て方

「デザイン指標」をテーマとした長谷川恭久さんのウェビナー。第1回目で概念や考え方につて触れ、今回は具体的な例を見せながら解説していく。あいまいさをなくし、シンプルで具体的にすることがポイントだ。

具体的なデザイン指標の例

Web戦略が「新規のお客様にパッケージの価値を幅広く訴求する」である場合、どんなデザイン指標が適切だろうか。「新規のお客様」なのだから、既存客はターゲットではないことがわかる。また「訴求」というのは価値を感じて行動してもらうことだと定義すると、問い合わせや資料ダウンロードといった具体的行動に落とせる。

その場合「PV」といったあいまいな数字を測る場合も、「PVの総数」ではなく、「新規ユーザーのPV」を計測すべきだとわかってくる。また、「離脱率」においても、「サービスパッケージの紹介ページでの離脱」と「資料ダウンロード前の離脱」は別の意味を持ち、細分化することで仮説や具体的施策が立てやすくなる。

ここで具体的なデザイン指標を考えるなら、例えば次のようになるだろう。

「1か月の計測期間で、新規訪問者の20%がパッケージ紹介へ遷移する」

これは、PVよりも非常に具体的な指標と言える。期間とターゲット、目的が明確だ。ここで、20%という数字の根拠が求められるかもしれないが、最初は感覚で「ざっくり」で構わない。その根拠を論じるよりも、実際にやってみて、計測して調整していくほうが近道だ。

よくある悪いデザイン指標の例は、次のようなもの。

「パッケージ紹介のPV数」

計測期間が明確でないし、ターゲット、ビジネスへの貢献度もわからない。また、改善策が出しにくいことが最も問題だ。

「アクティブユーザー数の向上」

などもあいまいで悪い例だ。アクティブユーザーと呼ぶための定義があいまいで、指標「向上」だけでは、上限も下限もわからない。

あいまいな書き方をなくし、ひと目で評価できる指標であることが大事だ。

デザイン指標ですべて解決するわけではない

デザイン指標は、あいまいさをなくし、シンプルにするほうがよい。重要なことだけを計測し、目標の数を少なくした方が覚えやすく、集中して取り組みやすい。

ただし、万能ではないことには注意しておきたいところ。数字が見えるようになったとしても、ユーザーの動機を把握することはできないからだ。動機を知るためには、アンケートやインタビューなど別の施策を考える必要がある。動機の部分は割り切って、まずはユーザーの悩みや行動を定量的に評価するところからスタートすればいいだろう。

策定した「デザイン指標」は、デザインワーク上で注視するポイントを示すだけでなく、理由付けが伴っていなくてはならない。それを共有したうえで、「ユーザーの成功体験に基づいたものを定量的に計測していく」ことの重要性を広めていくべきだろう。定期的に計測して、デザインの価値を示していくことが大切になる。

「最近は、CMSなどのツールもあるので、無難なサイトを作るだけなら制作会社に頼む必要もありません。提供できる価値を明確化してプレゼンしないと仕事を受けるのも難しいでしょう。社内で制作する場合にも、マーケターや営業から来た案件をそのまま作るだけではもったいない。デザイナーの価値を引き上げるために、課題解決にコミットし、自ら行動していかなくてはなりません」

そのために、デザイン指標が役に立つというわけだ。デザイン指標を理解するためには『LEAN ANALYTICS スタートアップのためのデータ解析と活用法』という書籍がお勧めだという。

いくつものあいまいな指標は、注視するポイントをぼやけさせ、結果的に課題解決に結びつかなくなってしまう。指標をひとつに絞るのはなかなか大変かもしれないが、その効果は大きい。次回は、ユーザー体験を定量的に測るバリエーションや、定性的な手法についても解説していく。

長谷川恭久さん
Webサイトやアプリの設計や運用のサポートに携わるデザイナー/コンサルタント。日本各地でデザインに関する様々なトピックを扱った講演やワークショップを行っている。著書に『Experience Points』『Web Designer 2.0』など。