デザインによって、どれくらいユーザーに成功体験を提供できるか。その目印となるのが「デザイン指標」だ。ウェビナーの前半では、デザイン指標の概要や具体的な例を示してきた。後半となる第3回では、ユーザー体験の測り方を解説していく。どんな手法や数値で測ることができるのか、長谷川恭久さんがレクチャーしてくれた。
成功体験を計測するためには?
「デザイン指標」の定義をもう一度おさらいすると「ユーザーに成功体験を提供できたかを定量的に評価するための目印」ということになる。
ユーザーの成功体験は、行動として見えることがあり、デザインサイドだけでなく、ビジネスサイドにも共感してもらいやすい。ところが、ユーザーの明確な行動として現れないこともあるため、定量的に測定できないケースもある。
現状、「体験を計測する」という意味があまり深掘りされていない場合が多い。サイト上での「よい体験とは?」「悪い体験とは?」を考えたり、「お客様が納得する」と言ったときの「納得とは?」に考えを巡らせたりすることが必要になっていく。それらをチームで検討して共通の意識を持ったうえで、デザインを改善していくべきだ。
成功体験を生み出すユーザーの行動として、12個ほどの代表的な数値がある。これらを見ればOKというわけではないが、押さえておいた方がいいだろう。
NPS
アクティブ率
アクティブユーザー数
タスク完了数
復帰率
導入率
導入者数
タスク完了時間
持続率
離脱率
解約率
解約までの時間
前述のように、このプロジェクトにおける「アクティブ」「アクティブユーザー」の定義を忘れずにしておきたい。
感情的な部分も定性調査で計測できる
ユーザー体験の計測はGoogleでも研究されており、HEART Frameworkという名前で公開されている。下記のような分類がある(参考:https://research.google/pubs/pub36299/)。
Happiness:幸福/満足した/使いやすかった
Engagement:エンゲージメント/興味を引く/集中する
Adaption:導入/購入する/更新する
Retention:持続/購入する/更新する
Task Success:タスク完了/実行できる/目的を達成できる
全ての値を見るわけではなく、上記のうちで自社の成功体験と呼べるものを考えていく。そのための計測手段として、アンケートやGoogleアナリティクスを使っていく。Googleアナリティクスを使う場合には、やはり先ほど挙げた12個の数値がウォッチする指標として活用できるケースが多い。
ただし、上記の分類の中でHappinessは最も厄介だと言える。幸せとにはいろいろな解釈があるからだ。計測するためには、プロジェクトにおける「ユーザーの幸せ」を定義する必要がある。
幸せの定義をするため、ポジティブな感情を25に分類した研究記事を参考にしたい(参考:https://diopd.org/wp-content/uploads/2012/09/faces-of-product-pleasure-published.pdf)。
例えば、Happinessに含まれる重要な感情として「予感」と「インスピレーション」を定義したとする。ユーザーインタビューをする際には、この定義が役立つ。「新しい視点や情報を見つけられましたか?」「自分も何かやってみようという気持ちになりましたか?」といった質問を思いつきやすい。
さらに一歩進めると、ユーザーインタビューなどで集めたフィードバックをデータベース化し、「満足度」と名付けてスコアリングすることも可能になる。
繰り返しにはなるが、事前準備として以下のことができていなければ、そこまで立ち戻る必要がある。抜け漏れがないように改めて気を付けよう。
・ターゲットユーザーの定義
ターゲットユーザーは必ず定義すること。
・成功体験の言語化
「いい体験とは何を意味するのか?」「いい体験はどう生まれるのか?」を明確にしておくこと。
・成果物の価値と結びついている
作っているWebサイトと、提供した価値が結びついていなくてはいけない。
・情報が周りと共有できている
指標の作り方などが共有できていないと周囲が戸惑ってしまう。その窓口を作ることからスタートしなくてはならない場合もある。
ひとことでユーザー体験といっても、行動に現れる定量的なものだけでなく、感情や動機といった定性的な部分もある。ただ数字を眺めるのではなく、「ユーザーにとっての成功体験とは?」「Webサイトで得られる幸せとは?」といったことに考えを巡らせることが大切だ。次回の第4回目は、セミナーを主催したスパイスワークスの企業サイトを実例として、デザイン指標を考えていく。
長谷川恭久さん
Webサイトやアプリの設計や運用のサポートに携わるデザイナー/コンサルタント。日本各地でデザインに関する様々なトピックを扱った講演やワークショップを行っている。著書に『Experience Points』『Web Designer 2.0』など。