顧客理解を深めるCXとコンセプトダイアグラム

第1回 なぜ買ったのか、なぜ買わなかったのかを知る

Webマーケティングの中心に、Google Analyticsによるデータ解析を導入している企業は多いだろう。ところが、そのレポート指標はひと昔前の基準になっているかもしれない。これからの時代に効果的なアナリティクスを知るため、デジタルマーケティングに精通する清水誠さんをお迎えして、WIT Caféでセミナーを開催。その様子をレポートする。第1回目は、古い時代のアナリティクスの問題点について解説する。

アナリティクスは変化し続ける

今回のセミナーは、単なるアナリティクスの側面だけではなく、UXからの視点も包括するような講義内容である、と清水誠さん。アナリティクスと聞いて多くの人が想像するのは、マーケティングの効果測定や集客の単価などかもしれないが、今回は異なる。これまでのようなデータ活用だけでは十分ではないと清水さんは提唱しており、『サイトサーチアナリティクス』や『[清水式]ビジュアルWeb解析』といった書籍を上梓している。顧客と企業のコミュニケーションにおける本質的な部分を考えていくことが大事だという。

まず、前提として時代背景の変革があるとのこと。デジタル化によって世の中が大きく変化し、競合の在り方が変化した。それまでは、同じ業界の狭い競争が中心だったが、現在は新たな領域にGoogleやAmazonに代表されるような世界的な大企業が、領域を横断して参入してくることが珍しくない。この影響から広告やPR業界も変化を余儀なくされている。清水さんは次のように言う。

「お金を払ってリスティング広告を出せばうまくいった時代もありましたが、今はたくさんお金を使っても潜在顧客にうまくリーチすることができず、反応もない時代です。新規顧客の獲得は、人口のどんどん減っている今の日本では『同じパイを奪い合う』厳しい状況になっています」

事業者から顧客へと主役の座が移ったことで、ビジネスにとって重要なことが変わってきているとのこと。

「このような時代に重要なのは『顧客の創造+維持』です。顧客になりそうな人を連れてくるだけでなく、そもそも今までの活動で顧客になり得なかった人も顧客に育てていくことに注力する。そういう意味の『創造』です。また、もう一方で顧客を維持することはデジタルにおいて軽視されがちですが、これからはむしろ維持の方が重要な時代と言えるでしょう。そのための手段として、良い顧客体験(CX=Customer Experience)を提供する必要があります」

顧客の気持ちや期待値、満足度を知ることが重要

課題を感じている企業は多いが、どうすべきかの指針が見えず、困惑のままもがいているケースが多く見られる。代表的なのが次のようなものだ。

・どこから⼿をつけたら良いかわからない
・ツールを⼊れすぎ、施策やデータがバラバラ
・根拠のないジャーニーやシナリオ
・A/BテストやPDCAのプチ改善ばかりで疲弊
・そもそも「顧客」がわからない

「ひとことで言うと、最後のポイント『顧客がわからない』ということになるでしょう。例えば、大手のブランドが公式のECサイトを持っているとします。顧客にとっては、品揃えが多く、使い勝手も良く、価格も安いショッピングモールやサイトが存在する状況で、『わざわざメーカーのECサイトで買う顧客』の気持ちや期待値、満足度はどのようなものなのでしょうか?そういった顧客理解が抜け落ちたままサイトを運用していたり、広告を打ち続けたりしているケースが多いのが問題です」

古風なレポートを使い続けているのでは?

アナリティクスのデータを取得するために計測ツールとして、無料のGoogle Analytics(以下、GA)を使用することが多い。「ただし、昔風のレポートを見ていることが多いのではないでしょうか?」と清水さんは忠告する。企業視点に偏ったデータは、次のような課題がある。

・⾏動データのみ→お客さまの顔が⾒えない
・結果(過去の実績)のみ→結果に影響する要因を分析できない
・ツール標準のデータのみ→必要なデータが不⾜

「ページビューや、一人当たりの閲覧ページ数、直帰率といった、GAのデフォルトで用意されているデータ項目を並べるのは約15年前のレポートです。結果的な行動データばかりで、企業からみた視点になっています。『どういう人が何をしたのか』という顧客像の視点が抜け落ちており、ビジネスにとって何が望ましいのかがわからなくなります」

例えばPVが多いのは欲しいコンテンツが見つからずにサイトをさまよっていたからかもしれない。一方で、SNSの投稿から1ページだけを読んで、満足してページを閉じる人もいるが、それはPV数には表れにくい。わかりにくいサイトや、やみくもにコンテンツの多いサイトはそれだけでもPVが上がるが、ビジネスにつながっていると判断することはできないのだ。

アナリティクスも変化が必要。

これまでのように企業視点を顧客視点に変えていくには、アナリティクスの考え方も変える必要がある。次のような観点で考える必要があるのだ。

・既存ツールの機能や指標はシステム都合
・レポート作成がゴールではない
・効率改善のPDCAは企業都合
・そもそも、データを何のために使うべきか︖

レガシーな指標では、顧客の心理が見えてこないことが問題だ。例えば売上が上がっても、なぜなのかがわからない。さまざまな要因を理解しなければ、結果数値だけを追うパフォーマンス系の指標のみでは解釈が難しい。

これまでは、「ログ分析」「アクセス解析」「ウェブ解析」「デジタルアナリティクス」というようにさまざまな名称で呼ばれていたものを、これからは「カスタマーアナリティクス」と呼ぶことを清水さんは推奨している。日本語訳は出ていないものの『Customer Analytics for DUMMIES』という書籍が勧められた。

ひと昔前のアナリティクスの弱点は、あくまで企業視点で顧客理解が進まないこと。これからは、カスタマーアナリティクスの視点が必要なのだ。次回は、カスタマーアナリティクスの概要を見ていく。

清水誠さん
Webビジネス歴25年。UXとIAの分野を開拓後、楽天やWebCrewなどの事業会社においてIT・UX・アナリティクス活用による社内デジタルトランスフォーメーションを推進。2011年に渡米し、プロダクトマネージャーとしてAdobe Analytics(SiteCatalyst)の企画・開発・啓蒙に携わる。2014年に帰国し独立。データを活用した顧客理解とUX構築を普及すべく、コンセプトダイアグラムとカスタマーアナリティクスを模索中。2013年Web人賞受賞。株式会社電通アイソバー CAO、株式会社ナイル 戦略顧問、株式会社b-unit 代表取締役。