年商47億円の経営から、ゼロイチを売る仕事へ

第1回 広告換算で数億ほどのメディアに掲載された

人材コンサルタント会社として、年商47億円を達成したことのあるワイキューブ。経営破綻したのち、自己破産をして人生の再スタートを切ったのは、代表取締役だった安田佳生さん。連載の第1回目はワイキューブ時代に実施したさまざまなブランディング施策。当時大きな話題となった、驚きの手法を聞いた。

中小企業なのに就職人気ランキング最高17位
栃尾

安田さんは、ワイキューブという会社を経営されていましたが、その事業について簡単に教えてください。

安田

スタートは、新卒採用の求人メディアを売る事業でした。紙媒体からインターネットへ移行しましたが、リクナビやマイナビに載せる求人広告を取ってきたり、求人のやり方を指南する仕事です。

栃尾

新卒採用に特化していたんですね。

安田

当時、毎年新卒採用をするのが3~4万社と言われていましたが、それは大手採用会社が握っている。でも、それ以外の「新卒採用はしない」という中小企業をターゲットに、新卒採用のコンサルティングを販売することにしたんです。新卒採用をする意味とか、説明会のやり方、入社後の教育など、もろもろですね。

栃尾

競合がいないところを狙って行ったのですね。

安田

とはいえ、そういう会社が、大手ではなくワイキューブを選ぶための理由が必要でした。そのひとつとして狙ったのが、求人サービス各社が毎年発表している「就職人気ランキング」で1位になることです。

栃尾

名だたる大手企業と並んで、かなり上位まで行ったと聞いています。

安田

それでも、最高17位くらいだったと思います。それにしても、中小企業がトップ20位以内に入ることなんてまずないので、かなり話題になりました。

ランキング上位狙いはブランディングだった
栃尾

どうやってランキングを上げたのですか?

栃尾

まずは、ランキング調査の前までにたくさんの学生と接触することが大事です。知ってもらわないと始まらないですから。当時の新卒の学生は約40万人と言われていて、そのうちの1万人くらいと直に接触しました。本当は5万人くらいに接触したかったんですが。

栃尾

接触とは、具体的にはどうやるんですか?

栃尾

ランキング審査目的として会社が学生に向けて行うアンケートの実施前までにできることといえば、会社説明会の開催や、パンフレットの配布、初回の面接などです。効果が高いのは会社説明会でしたね。いかに「ワイキューブが素晴らしいか」をアピールするんです。

栃尾

説明会はどこも力を入れるのではないでしょうか? 差別化が難しいように思いますが……。

栃尾

他社と違うところを狙っていくんです。例えば、セレクトショップを作って、説明会で話す社員たちをおしゃれに仕立てました。

栃尾

セレクトショップを作る……?

栃尾

社員とお客さん専用のセレクトショップを恵比寿に作り、人事担当者に特化したリーズナブルなスーツを提供するんです。今は服装に気を遣うのは普通かもしれませんが、昔は人事担当者や経営者の服装がダサかった。ワイキューブの社員とお客さんの両方が利用する店舗を作るのは、まさに一石二鳥でしたね。

栃尾

発想がすごい。顧客のメリットもあるようにしたんですね。確かに、見た目がおしゃれだと印象が大きく変わりますね。

栃尾

他に説明会で差別化をはかったところとしては、「笑い」を取れるようにしたことですね。私自身も、笑いの取り方を人に教えてもらったものです。最初は滑りまくっていましたけど、徐々にうまくなっていきました。

やり過ぎることでメディアに取材してもらう
栃尾

地道な努力でランクアップを目指したんですね。

安田

他には、メディアに取材してもらうような施策を考えました。最初はPR会社に年間3000万円ほど支払って記事を増やす取り組みをしたんですよ。でも、「付き合いで出しました」という類いの、人の目に止まらないような小さな記事しか掲載されない。

栃尾

それは悲しいですね。

安田

当然ですが、反応もほとんどないし全然読まれているという実感がなかったわけです。そんな折りに、記事として取り上げるメディア側の記者の方と直接知り合うことができた。そこで、飲みに誘って聞いてみたんですよ。そうしたら「いいニュースや面白いネタは常に探している」という。

栃尾

それはそうですよね。面白い記事があればそれを書きたいはずだし、自分で見つけたいものです。

安田

小さくしか掲載されないということは「おまえは面白くない」と言われているようなものですよ。

栃尾

確かに……。

安田

僕たちは人が主役であり、商品でもある採用会社なので、「社内にいい人材を抱えれば絶対に成功する。そのためには福利厚生を充実させることが大事。福利厚生では会社は潰れない」という方針で、とにかく手厚い福利厚生を用意したんです。

栃尾

どんな福利厚生なんですか?

安田

オフィスをゴージャスにしたり、3時におやつを作るためのパティシエを雇ったり、おいしいコーヒーを淹れてくれるイタリア人のバリスタを雇ったりね。本当はルーマニア人だったんですけど(笑)。

栃尾

それを「福利厚生」として打ち出すことでメディアに注目されるようになったのですね。

安田

常軌を逸して「おかしいんじゃないの?」と思われるくらい徹底的にやると、面白がってメディアが取材に来てくれる。それに、読者にもよく読まれます。オフィスにお金はかかっても費用対効果は高くて、広告換算してみたら、2~3億円分くらいの露出効果にはなっていたんですよね。

栃尾

学生へのアプローチとメディア露出などの施策の相乗効果で、徐々に「就職人気ランキング」で上位になっていくわけですね。

安田

そうですね。ランキングは自社をブランディングすることで、作為的に上げていきました。あそこまで派手に演出した背景には、目的があったのです。

ユニークな施策を次々と打ち出し、メディアに掲載されたワイキューブと安田佳生さん。ところが、2008年のリーマンショックも相まって、経営が傾いていく。次回はその時の様子と、どのように新たな事業を作っていったのかを伺う。

安田佳生さん
リクルート社を経て、1990年ワイキューブを設立。著書多数。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。2011年3月30日、ワイキューブが東京地裁に民事再生法の適用を申請後、個人で活動を続けながら、2015年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。同氏と差しで向き合い、こだわりの店で食事をし、こだわりのバーで酒を飲み、こだわりに経営について相談に乗ってもらえる「こだわりの相談ツアー」は随時募集中

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも