年商47億円の経営から、ゼロイチを売る仕事へ

第2回 「個人が食える時代」を活かして再スタート

境目研究家として活動し、さまざまな企業の経営や事業の企画を請け負っている安田佳生さん。過去には、人材コンサルティング会社を経営し、さまざまな施策により話題をさらっていた。ところが、経営が悪化し、民事再生を申請することに。連載第2回では、そこからどのように再スタートを切ったのか伺っていく。

徐々に、経営がうまくいかなくなった
栃尾

ワイキューブはいろいろな施策で注目を浴びていたわけですが、経営がうまくいかなくなったんですよね。

安田

社員の満足度を上げれば、いい人を採用できて、必然的に売上が上がると考えていました。だから、400万円程度だった社員の平均年俸を、800万円くらいまで徐々に引き上げた。でも、それだけでいい人材が集まるわけではなかったんです。

栃尾

売上が追い付かなかったんですか?

安田

売上は伸びてはいたのですが、数年後にリーマンショックがあり、1/3くらいになりましたね。人事採用活動を完全にストップする会社が後を絶たなかったんです。その結果、2011年に民事再生を申請しました。

栃尾

そこから、安田さんの仕事も大きく方向転換をしたんですよね。

安田

自己破産したので、現金が99万円しかない。家も車もありません。20年くらい社長業しかやっていなかったので、社員がいなかったらなにもできないんです。パワポ使えない、企画書作れない、営業できない。

栃尾

社長ではなくなって、どのように仕事をスタートしたんですか?

安田

3年くらいぼーっとしていた気がします。知人に経営の手伝いや講演を依頼されて、細々と働いていました。妻が働いていたので、食べさせてもらっていた部分もあったのかもしれませんね。

0から1を生み出す仕事が好きだとわかった
栃尾

ぼーっとする期間を経て、今のような仕事が見つかったのでしょうか。

安田

常に新しいことを考えるのが好きだとわかったんです。ワイキューブの経営は散々考えてきましたが、他の業界は知らない。会社の経営顧問として現場に入って、社長の代わりに0を1にするアイデアを考えたいと思いました。これを100社やろうと決めたんです。

栃尾

すごいですね! どれくらいかかるのでしょうか。

安田

丸5年やって、まだ60社です。以前の経営者時代は社員とお金を使って利益を増やすことを考えていましたが、今は言うなれば「肉体労働」です。自分が働いた分しか利益にならないので大変ですが、逆に満足度が高いです。社長だったころは、たとえ1か月旅行に行ってもその間も社員が働いてくれるので、報酬が振り込まれるわけですからね。

栃尾

昔と今の仕事は、感覚的に全然違うのでしょうね。

安田

ワイキューブの社長だったころは、無理していたと思います。200人以上の社員を前に「できる人」としてふるまわなくてはいけない。今は気楽ですし、「できません」も言えます。でも、以前の方が刺激はありましたね。人とお金をダイナミックに動かすのは、麻薬みたいなものです。

栃尾

なかなか抜け出せないんですか?

安田

脱するのに時間がかかりました。人とお金を大きく動かしている人を見ると羨ましく感じてしまいます。今はかなり少なくなりましたけど。

「個人で食える時代」に助けられた
栃尾

身軽になったとはいえ、やりたい仕事をすぐにできるわけではないと思うのですが、どのように進めて行ったのですか?

安田

ひとりで働くしかなくなり、SNSやメルマガなどネットを活用するうち、時代に恵まれていると気が付き始めました。「ワイキューブの元社長」という肩書きがなくても、「個人で食える時代」になっているんです。

栃尾

私も実感しますが、インターネットにより、時代が変わってきているんですね。

安田

加えて、企業が右肩上がりに売上を伸ばせる時代ではなくなりました。組織では、できる人が、できない人の分をカバーしているのが実情です。黒字社員は、赤字社員の分も稼いでいるんです。だから、できる人は組織を離れて個人で活動した方が稼げるんですよ。

栃尾

安田さんが「雇わない経営」を勧めているのもそういう理由なんですか?

安田

企業としても、社員にこだわらない方が、メリットがあります。社員は採用するのにも育成するのにも大きなコストがかかります。ところが、終身雇用時代よりとても簡単に辞めてしまう。社員に投資をしても、回収できるだけの見込みがなくなってきたんです。

「個人で食える時代」が来ていると感じた安田佳生さん。それにより、やりたいことが個人でもできるようになったという。次回は、働き方が変化する中で、個人がどのようにスキルを高めて行けばいいかを聞いた。

安田佳生さん
リクルート社を経て、1990年ワイキューブを設立。著書多数。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。2011年3月30日、ワイキューブが東京地裁に民事再生法の適用を申請後、個人で活動を続けながら、2015年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。同氏と差しで向き合い、こだわりの店で食事をし、こだわりのバーで酒を飲み、こだわりに経営について相談に乗ってもらえる「こだわりの相談ツアー」は随時募集中

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも