SNSで5億売った男の流儀

第4回 個人ブランディングは中小企業に限らない

「短パン社長」としてテレビなどのメディアに登場している奥ノ谷圭祐さん。自身が経営するアパレルブランドのほかに、商品の開発・販売や、コミュニティ運営など、さまざまな事業を手掛けている。別の事業をする理由をはじめ、アンチの対応や大手企業におけるSNS運用など、SNSに絡めた事業で気になるポイントを伺った。

遊びと事業がシームレスにつながっている
栃尾

食品分野などアパレル以外にも事業を拡げられているのはなぜですか?

奥ノ谷

事業というより、コミュニティの延長で始まったという方がいいかな。例えば、会社の周りにあるカレー屋が好きでカレーばかり食べてSNSに投稿していたら、当時出ていたテレビ番組の企画として「短パンカレー」をオリジナルで作って販売することになった。そうしたら、なんとオンエア前に完売しちゃったんです。さすがにそれじゃテレビ的にもまずいから、あわてて追加生産したんですけどね。評判が良かったので、さらにエプロンや皿、スプーンなどもその流れで派生的に作りました。嬉しいことに、結局、全アイテム完売したんです。

栃尾

そうやって、アパレル以外にも広がっていったんですね。

奥ノ谷

カレーをきっかけに「アパレルだけじゃなくて食卓も明るくできるんだ」とわかり、他の分野でもいろいろやってみるようになりました。例えば、「チーム短パンゴルフコンペ」。このコミュニティはKeisuke Okunoyaの服を買った人だけに参加資格がある集まりなんです。どんなにゴルフが上手くても、それだけでは参加できません。また、「短パン田植え部」も作りました。これはカレーに合うお米をオリジナルで作るのがゴール。すべての日程に参加できることを条件に、一緒に田植えや稲刈り、脱穀をやり、汗水たらしてみんなで「短パン米」を作った。40人以上の人が参加してくれました。アパレル屋さんらしく「短パン田植え部」オリジナルのオーバーオールも作って、みんなでそれを着て農作業をするんです。ユニフォームって大事ですよね。一体感ができるというか、同じ釜の飯を食べているという仲間意識が高まる。

栃尾

事業というより、遊びと一緒になっているのでしょうね。

奥ノ谷

そうそう。全部つながっていますね。でもいろいろ手を出すとクレームが来ます。「短パンビール」を作ろうとしたときには、酒屋から「お酒の知識もないくせに。どうせ免許もないんだろう」って言われたりね。ただ、そのおかげで「そうだ、免許いるんだ!」って気が付いて、慌てて取りに行きましたよ(笑)。

アンチやクレームには直接「やめてほしい」と伝える
栃尾

先ほどから聞いていると、アンチやクレームを言う人が多そうですね(笑)。どのように対応しているのですか?

奥ノ谷

正直言って、イチャモンをつけるのが好きな人はいます。ほとんどは嫉妬や妬みでしょうね。僕はその人を晒すようなことはせず、DMなどで直接言うようにしています。「僕は言われてもいいけど、僕のファンの人たちは読んだら嫌な気がすると思う。だからやめてほしい」と。さらに文句を言ってくる人もいますが、たいていはやめてくれます。また、「ブロックはしないでほしい」と返信してくる人もいるんです。

栃尾

そういう人は、好きの裏返しなのでしょうね。

奥ノ谷

そうそう。好きと嫌いは紙一重ってよく言うしね。僕もそうだけど、好きじゃないなら嫌いになるんじゃなくて興味なくなるだけだから。好きの反対は無関心。そう思ってます。

SNSが必要なのは個人や中小企業だけじゃない
栃尾

SNSを個人で活用するのは、個人事業主や中小企業なら必要なことだと思いますか?

奥ノ谷

というよりも、大企業でも変わらないですよ。僕は大手3社でアドバイザーとしてSNS研修をしていますが、すごく実感しますね。過去には社長や経営層向けに講演をしていましたが、僕より年齢が上の方たちにSNS活動を実行してもらうのはすごく難しい。いわゆる「お勉強」が好きなんですよね。社長自ら手を動かして発信をすることはプライドが邪魔するのか、すぐに部下に任せたがる。でも社長自らがやらないと意味がない。

栃尾

自分でアカウントも持っていないと、やはりわかりませんよね。

奥ノ谷

その点、若い人は違います。若い人との接点は、メガネ販売のオンデーズの社長、田中修治さんに依頼されて、新卒向けにSNS研修をしていること。あのように大きな会社でも、「本名」「顔出し」「役立つ投稿」ができる? と聞いてから研修をしますが、ほぼ全員がしてくれる。本名出していない裏アカウントも本名に変えてくれます。若い人は、普段使っているSNSが仕事になると知って、びっくりしながらも、嬉々としてすぐに始めてくれます。そして、みんな途中で投げ出さずに継続的に投稿し続けてくれるんです。

栃尾

社員に仕事でSNSを使ってもらうのって、結構なハードルじゃないですか? クレームや炎上のリスクもあるので、経営者が嫌がるようなイメージがあります。

奥ノ谷

それじゃダメなんですよね。社長自らSNSをやっている会社にしか、研修をしないことにしています。「社員がヘマをしでかしちゃうんじゃないか」と思っている社長は、社員を信用していないんですよ。それではうまくいきません。

「オンデーズの○○さん」じゃなくて、「○○さんがいるオンデーズ」にならなきゃいけない。「あなたを目掛けてメガネを買いに来ました」という人を増やす。1店舗にひとりスーパーヒーローを作れば、その人に会いに来てくれるお客さんが増えるという考え方です。

栃尾

BtoCのなかで実店舗のあるビジネスはもちろん、BtoBでも、顔やキャラクターを知っている人と商談したいと思いますよね。

奥ノ谷

そうですよ。SNSは、お客さんに簡単に手紙を出せるツールだと思えばいい。

栃尾

なるほど。どんな仕事でも、お客様にお手紙を出して悪いことはないですよね。

奥ノ谷

大きな企業であるほど、これまで人がやっていた仕事を、コンピューターが代替していくようになりますよね。コンビニのレジなんかはそのひとつ。そうすると、必要な社員が少なくなる。そんなときに、会社に誰を残したいかって言われたら、個人をブランディングできていて外に向かって発信できる力を持っている人ですよ。会社員であっても、自分の生き残りをかけて、自分を売り込むために是非ともSNSをやるべきだと思いますね。

SNSで「短パン社長」として存在感を出し、新たな事業にもつながっている奥ノ谷さん。アンチにも真摯に対応している姿が信頼につながっているのだろう。これからの時代は、経営者ばかりでなく、会社員でもSNSで個を発信することが大切だという。いかに早く自分ごととして考えていけるかが、これからの明暗を分けるのかもしれない。

「いいね」を購入につなげる 短パン社長の稼ぎ方
奥ノ谷 圭祐 (著)

奥ノ谷圭祐さん
株式会社ピーアイ代表取締役社長。通称「短パン社長」。洋服に限らず、カレー、コーヒー、米、ビールも販売。短パンビール部といったコミュニティも作る。ブランド「Keisuke Okunoya」はSNSのみの販売で5億超え。ブログは毎日欠かさず書き続け間もなく10年。5月には短パンフェスを開催。12月に初の著書『「いいね」を購入につなげる短パン社長の稼ぎ方』を出版!

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも