原体験から導くブランディング

第4回 ブランディングは社内に対しても大きな効果がある

ブランディングについて精力的に発信しながら、企業のブランディングを支援しているチカイケ秀夫さん。インタビュー最終回となる今回は、会社の内部にとってブランディングにどのような意味があるか伺っていく。

従業員が自信をもって扱うために「WHY(なぜやるか)」が必要
栃尾

ビジョンやミッション、理念は、従業員の人、つまり社内に対して大切だという印象があります。

チカイケ

できれば、従業員の人が「これをやるなら命を賭けてもいい」と自信をもって言えるようなものがあるといい。10年やそこらで変わるものに命はかけられないので、100年経ってもブレないものが必要になるんです。

栃尾

従業員の方たちが商品やサービスを好きなだけでは足りないんですね。

チカイケ

商品は変わっていきますからね。でも、日本でひとつしかないビジョンやミッション、理念に共感していれば、顧客が増えるほど社会がよくなっていくと思える。だから、商品が変わっても同じモチベーションで取り組めますよね。

栃尾

確かにそうですね。

チカイケ

ビジョンやミッション、理念が「お飾り」になって、きれいごとで終わっている会社もあります。でも、ちゃんと機能しているなら、例えば、紙の浪費が叫ばれる現代にあってコピー用紙を扱う仕事に従事していたとしても「コピーを取ることで社会がよくなる」と思えます。そういう考えなら、仕事への取り組み方が変わりますよね。

栃尾

そう思って仕事ができるといいですね!。

社内制度などにも一貫性を持たせる
栃尾

人事や採用にも有効なのでしょうか。

チカイケ

もちろんです。社内向けの採用や人事制度、福利厚生、研修など、すべてに一貫性を持たせていくようにします。一過性のものではなく、その会社らしい制度づくりが必要になります。

栃尾

会社の中の決めごとにも、ビジョンやミッション、理念といったものが生きてくるんですね。

チカイケ

そうですね。特に採用というのは会社の入り口なので、理念などを反映させて、その会社らしい募集の仕方や採用プロセスを通して、体験として提供する必要があります。

栃尾

確かに、採用に反映させなければ、共感する人を採用することはできないでしょうね。

チカイケ

そうなんです。判断に迷ったときには理念に立ち戻ります。いくつか選択肢があったら、理念を最大化するものを選べばいい。「らしい」「らしくない」といった共通言語があると意思決定が早まるんですね。

カルチャーがあると組織の変化にも対応しやすい
栃尾

「うちの会社らしい」という意識を従業員全員が持てていると聞くと、何社か思い浮かぶ会社があります。

チカイケ

それは「カルチャーがある」ともいえます。ブランドは概念や一貫性と言えますが、カルチャーは風土。「あそこのカルチャーいいよね」と外部にも伝わっている状態ですね。

栃尾

カルチャーがあると、「~らしい」という判断軸が持てるのですね。

チカイケ

それがあると組織が強くなります。会社は成長していくにしたがって社員数が増えていきますが、事業の成長スピードが速いと人の成長が追い付かないことがあります。その場合、ミドルマネジメントがうまくいかないことが多い。でもカルチャーがあれば、その部分を代替できるんです。

栃尾

なるほど。トップの想いが従業員にちゃんと降りているということでしょうか。

チカイケ

そうです。風土はその名の通り「風」。「なぜやっているのか」を柔らかく伝えて、風通しを良くしていく。それを繰り返すことでカルチャーや文化が育っていくんです。

経営者は変わっても、法人格は変わらない
栃尾

コーポレートアイデンティティ(CI)は、社内のブランディングにどのように影響しますか。

チカイケ

何度か言ったように全方位的に一貫性を持たせていきますが、特に「変化に強い」という特徴があります。

栃尾

どういうことでしょうか。

チカイケ

もともと、経営者の想いや原体験からCIを作っていきますが、出来上がったら個人格と法人格は別個のものになります。経営者は、どんどん言動が変わる人が多いけど、CIは変化しないんです。

栃尾

経営者の言っていることに振り回されるようなケース、よく目にする気がしますね。

チカイケ

日々の判断はもとより、経営者が世代交代するときにとても有効です。経営者が変わっても、CIは変わらないから混乱しません。CIとカルチャーがしっかりとできていれば、経営者の交代がスムーズにいきます。

栃尾

なるほど。ブランディングは社外に対するものだけでなく、社内に対しても大きな意味があるんですね。

4回を通して、ブランディングの大切さをうかがってきた。ビジョンやミッション、理念などが会社の根底に流れていることで、あらゆるケースでそこに立ち返ることができる。どうしても商品開発やマーケティングに重きを置きがちだが、CIやBIの策定を抜きにして進めると脆いだろう。見直しのサイクルも視野に入れつつ、強くブレない思想を作りたいものだ。

原体験ドリブン 人生の答えの9割がここにある!
チカイケ秀夫(著)

チカイケ秀夫さん
PERSONAL VENTURE CAPITAL. LLC代表。20代WEB系デザイナーにはじまり、ディレクターから、一部上場IT企業グループ、複数のベンチャー立ち上げに携わる。上場企業の理念策定や、代表直下プロジェクトマネージメントとブランディングを経験し、スタートアップに特化したブランディングで起業。現在は、スタートアップに特化した企業のブランディング・パートナー/社外CBO(最高ブランディング責任者)として常時10社ほどをサポート。累計100社ブランンディングに関わる。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも