原体験から導くブランディング

第3回 「コーポレート」「ブランド」「サービス」を分けて考える

さまざまな企業のブランディングをサポートするチカイケ秀夫さん。インタビュー3回目は、スタートアップにおけるブランディングの大切さとともに、コーポレートアイデンティティ(CI)、ブランドアイデンティティ(BI)、サービスアイデンティティ(SI)の違いなどを伺っていく。

手段には興味がない
栃尾

チカイケさんがスタートアップのブランディングを推し進めたいと思った理由はあるのでしょうか。

チカイケ

どんな企業も本質は同じなのですが、多くのスタートアップはサービスを先に考えてしまって、上手くいかずに「笑顔にしたい人」がわからないまま消えていってしまうんです。

栃尾

売上アップや事業規模の拡大を意識しすぎてしまうんでしょうか。

チカイケ

それはスタートアップに限らないのですが、どうしても目に見えるものを先に作りたがるんですね。でも、「なぜやるか」から入った方がいいと僕は考えています。

栃尾

原体験の話同様、「ブレない」からですか。

チカイケ

そうですね。ブレないことももちろんですが、「誰とも被らない」こともポイントです。これまで原体験ワークを通じていろいろな人に話しを聞いてきましたが、同じような原体験を持つ人は一人もいませんでした。

栃尾

自分の深いところにあるコアな想いがわかるんですね。

チカイケ

想いがわかるから、そこからアイデンティティが定まっていくんです。僕は常々「手段には興味がない」と言っています。ビジョンやミッションが定まってブレなければ、僕にとって手段は何でもいい。「なぜやっているか」を定めることが大切です。

ブランディングとマーケティングでは広告の出し方も変わる
栃尾

アイデンティティが定まってくると、広告やPRといったアウトプットも変わってくるのでしょうか?

チカイケ

広告というと、商品を売るためのものと思われがちですが、「ブランド広告」といって、企業の価値観を表したものもあります。例えば、そごう・西武の年始の広告「さ、ひっくりか返そう。」という広告を覚えていますか?

栃尾

ああ、話題になりましたね! 1行ずつ、下から読んでも意味が通るものでした。ネガティブな内容が、逆さから読むとポジティブになるという。

チカイケ

キャンペーン広告のような観点で見た人から「費用対効果あるの?」「意味あるの?」という意見がありましたが、ブランド広告にはちゃんと意味があります。企業の付加価値が高まるので、値段勝負に陥らずに済みます。

栃尾

キャンペーン広告とブランド広告は違うんですね。

チカイケ

キャンペーン広告は、即効性があるものの、一定期間で途切れてしまいます。ところが、ブランド広告の場合、継続的に出すことでブランド価値が蓄積していくんです。そこは、即物的で数値を追うマーケターの方とせめぎあいになることが多いです。

栃尾

なるほど。考え方が違うんですね。

チカイケ

考え方というか……粒度が違いますね。サービスは3年サイクル、市場は10年、思想は100年です。時間軸が違う。

栃尾

企業としては、長い目で見るブランド広告に予算を付けるのは難しいのではないですか?

チカイケ

ブランドに対するエンゲージメントが高まると、全体の広告費を下げられます。「ブランディングで売り上げが上がるの?」と問われれば、「今までブランディングをしてこなかったから、いま大変なことになっているんです!」と断言できますね。

栃尾

そう考えると、ちゃんとブランドに予算を割けるようになるわけですね。

「コーポレート」「ブランド」「サービス」の違い
チカイケ

コーポレートアイデンティティ(CI)や、サービスアイデンティティ(SI)を重視する企業は多いのですが、その間をつなぐブランドアイデンティティ(BI)がない場合がほとんどです。

栃尾

それぞれは、具体的にどんなものなんですか?

チカイケ

例えば……ファーストリテイリング社という会社がありますよね。ユニクロやGUといったブランドを展開しています。さらに、エアリズムやヒートテックという商品(サービス)がありますよね。それぞれに、アイデンティティを定めていくんです。

栃尾

ファーストリテイリング社のような例で考えると分かりやすいですね。消費者としても、それぞれに別のイメージがあります。

チカイケ

そうなんです。それぞれの耐久年数は、100年、10年、3年といったところ。スタートアップではサービスがひとつしかなく、それぞれが分かれていないケースがありますが、サービスや事業が増えていけば分けて考える必要があります。

栃尾

確かにそうですね。最初はサービス名と会社名が一緒だったりしますね。

チカイケ

LINEのようにセンターとなるブランドを作って、そこからさまざまな事業を派生的に作っていくケースもありますし、ファーストリテイリングのように社名とブランド名を完全に分けているケースもあります。

栃尾

なるほど、業界や事業によりさまざまなんですね。

「ブランディング」と一言でいっても、見ている範囲や粒度が異なる。慣れないと難しいが、CIは100年、BIは10年、SIは3年と考えていくと想起しやすい。次回は、社内に向けたブランディングの意味や効果を教えていただく。

原体験ドリブン 人生の答えの9割がここにある!
チカイケ秀夫(著)

チカイケ秀夫さん
PERSONAL VENTURE CAPITAL. LLC代表。20代WEB系デザイナーにはじまり、ディレクターから、一部上場IT企業グループ、複数のベンチャー立ち上げに携わる。上場企業の理念策定や、代表直下プロジェクトマネージメントとブランディングを経験し、スタートアップに特化したブランディングで起業。現在は、スタートアップに特化した企業のブランディング・パートナー/社外CBO(最高ブランディング責任者)として常時10社ほどをサポート。累計100社ブランンディングに関わる。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも