常に10社ほどのブランディングをサポートしているチカイケ秀夫さん。インタビューの第2回目は、最近出版された書籍のタイトル『原体験ドリブン』にちなみ、原体験の大切さを伺っていく。
ワークを中心にした書籍に
今年、『原体験ドリブン』というタイトルの本を書かれていますよね。
はい。この本は体験型にするように工夫しました。HOW TO本は飽きられてしまうし、読者が「やった気」になってしまう。その壁をなんとか破るために、みなさんの中にある原体験を見つけ出すワーク型のスタディを中心としています。
反響はいかがですか。
本を読んでくれた人が実際にワークをしてみて、良いと思った方がSNSや口コミで広めてくれています。Amazonのレビューにも原体験ワークをした人が書いてくださったコメントがあり、それを読んで買ってくれた方もいるようです。
原体験とは、簡単に言うとどんなものですか。
原体験とは、今持っている価値観のおおもとになる体験や源泉のことを指します。持っていない人はいませんが、意識できていない人はいます。
原体験を大切にするのはどのような理由からですか?
世にあるサービスは、3年くらいのスパンで変わっていきます。変えざるを得ないんですね。でも、コーポレート内にある「思想」は100年経っても変わりません。例えば、シャネルやエルメスといったブランドを見ればわかります。商品は変わるけど、根本の思想は変わらないんです。
その「根本の思想」が原体験に関係してくるのですね。
原体験は変わらないから、ぶれない思想ができる
原体験は「人」に紐づきますよね。ブランディングを意識する場合、経営者の原体験が大切、ということになるのでしょうか。
コーポレートアイデンティティ(CI)の策定など、コーポレートブランディングであれば、CEOの原体験がメインになります。サービスアイデンティティ(SI)も経営者や創業者のケースが多いですが、サービス責任者の原体験を見ていく場合もあります。
それは、原体験に紐づいていないと弱いんでしょうか。
原体験は変わらないので、思想もブレないしブレてはいけないんですね。思想の部分がころころ変わってしまったら、従業員は付いていくのが難しい。社長が本当にいいと思っている変わらないものがあって、それを従業員の方もいいと思うから、一緒になって、企業やブランドを育てていけるんです。
従業員の方は、確かによりどころがあった方がいいですね。
従業員だけでなく、経営者本人のためでもあります。起業しても経営がうまくいかなくなることは何度もあるでしょう。「なんでこんなことやってるんだろう」と思ったときに、原体験が支えになる。「儲けたいから」が最初の想いだったら、壁に当たった時に心が簡単に折れてしまいますが、「この人を笑顔にしたい」という思いがあれば踏ん張れますから。
原体験ジャーニーはひとりかペアで実施する
本にも書かれている原体験ジャーニーについて、概要を教えてもらえますか?
問いを通じて過去を振り返ることによって、自分の「原点」を探す作業です。次々に「なぜ?」と問いかけて深掘りしていくのです。書籍にはひとりでのやり方も載せましたが、できれば誰かとペアになって深めてもらいたいです。
ひとりだとすごく難しそうですよね。
感情が絡むので、自己ワークだと疲れますね。
どんなふうに進めていくのですか?
ひとりでもペアでも、基本の5項目から掘り下げていきます。
・今やっていること
・時間を忘れてできること
・好きな言葉
・やりたくないこと
・将来やりたいこと
それぞれに回答して書き留めてから、「なぜ?」で深掘りします。ひとつの項目につき、最低5回は「なぜ」をやるといいでしょう。
質問は「なぜ?」だけなんですか?
必ずしもそうとは限りません。「いつから」「どうやって」などいろいろな質問で過去にさかのぼっていきます。
どれくらいまでさかのぼればいいのでしょうか。
絶対ではないのですが、深掘りの目安は3歳前後です。その頃はまだ自我が固まっていないため、意味づけや解釈なしに自分の深いところに入り込み大人になっても残り続けます。
なかなかこの時間だけで聞くのは難しそうですが、そのようにして自分のなかの「変わらないもの」を見つけていくのですね。
そうですね。そこを深掘りして、コーポレートアイデンティティ(CI)や、ビジョン、ミッション、理念につなげていきます。
「原体験」は変化せずぶれないからこそ、信じるためのよりどころになる。特に、心が折れそうになったときの支えになる大切なものだ。次回は、スタートアップなど拡大スピードが重視される場面においてのブランディングについて伺っていく。
原体験ドリブン 人生の答えの9割がここにある!
チカイケ秀夫(著)
チカイケ秀夫さん
PERSONAL VENTURE CAPITAL. LLC代表。20代WEB系デザイナーにはじまり、ディレクターから、一部上場IT企業グループ、複数のベンチャー立ち上げに携わる。上場企業の理念策定や、代表直下プロジェクトマネージメントとブランディングを経験し、スタートアップに特化したブランディングで起業。現在は、スタートアップに特化した企業のブランディング・パートナー/社外CBO(最高ブランディング責任者)として常時10社ほどをサポート。累計100社ブランンディングに関わる。
栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも



