広報が語るべきは、心をつかむストーリー

第4回 取り上げてもらうには、まずそのメディアの大ファンになる

『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』(宝島社)の著者である小西みさをさんは、広報歴25年超。たくさんの人脈があることはもちろんだが、それは一朝一夕で手に入れたものではない。どのような活動でメディアにアプローチし、さらに信頼を強めていったのか。小西さんのこだわりを、惜しみなく教えていただいた。

メディアの記者に価値のある情報だけを渡す
栃尾

広報・PRにとって、メディアに取り上げてもらえると大きな効果が期待できると思うのですが、小西さんが大切にしていることは何ですか?

小西

一番大切にしていることは、取り上げていただきたいメディアの大ファンになること。逆にもっともよくないのは、手当たり次第にプレスリリースをばら撒くことなんです。

栃尾

同じプレスリリースをたくさんのメディアに送るのは普通だと思っていました……!

小西

そういうPRの手法が多いからですね。でも、「この媒体の、このコーナーに書いてほしいんです。そのための企画を立てました!」とお伝えするほうが効果的なのです。

栃尾

確かにそうですね! 目からウロコです。

小西

記者の方って、毎日腐るほどリリースが届くので、全てにくまなく目を通すなんて物理的に難しいんですよね。だから、知っていただくための秘策が必要なんです。

栃尾

そこまですれば、見てもらえるものなんですか。

小西

記者の方はとても忙しいので、「そこに置いておいてください」とあしらわれることもあります。でも、人の心理として「あの記事を書いたあなたに、この企画で書いてほしい!」と言われたら、他の山と積まれたプレスリリースから探すより、最初に目を通してみようかなと思いますよね。

栃尾

本当にそうですね。「名指し」までされたら心境は全然違います。

小西

そういうことを繰り返していると、少しずつ信用してもらえます。何でもかんでも「取り上げてもらえればいい」という人と、「この企画だからあなたに書いてほしい」と考える人では、持ってくる情報の価値が違うはずですよね。

栃尾

確かに。そうなると、本当に意味のある情報しかお渡しできないことになりますよね。

小西

そうなんですよ! 例えばクライアントが「このメディアに取り上げてほしい」と言ったとしても、価値を上手く訴求できないと判断したらそのままではアプローチしません。社会課題と組み合わせるなどして、メディアの方にもその先の消費者に伝えるべき意味があると感じていただける状態に落とし込んでから情報を発信するようにしています。

栃尾

クライアントのメリットはもちろんですが、メディア側のメリットも重要なんですね。

小西

相手が求めていない情報を伝えても意味がありませんから。アマゾンにいたときは、「『セール』をPRしてほしい」と事業部から言われるのは、正直言って毎回気が重かったのです。セールはどの会社も実施していることですし、セールを実施する事実だけではニュースではないので、「もっと時事性、新規性、独自性などニュースの切り口になるような要素を入れる工夫はできますか」とヒントを投げかけて毎回可能性を探っていたほどです。

栃尾

すごいですね……!

新聞や主要メディアは毎日読む
栃尾

メディアの研究をして、適した企画を作成するとなると、膨大な量のメディアを読み込まなくてはいけないのでしょうか?

小西

そこまで気負う必要はありませんが、新聞は必ず読んだ方がいいと思います。テレビや雑誌の記者さんも読んでいますから。社会のニーズと調和させていくことが不可欠なので、きちんとした取材体制のある媒体のニュースは押さえておく必要があります。

栃尾

毎日、どれくらい読んでいるのですか?

小西

新聞は毎朝Webでひととおりチェックします。トップ記事の見出しを見るだけでも、興味のある所だけでもいいです。あとは日経ビジネスや東洋経済、ダイヤモンドといった経済誌。情報番組や報道番組も見るようにします。その他は、扱う商品に合った業界メディアですね。

栃尾

大変そう……!!

小西

全部をじっくり読む必要はありません。扱ってもらえそうなコーナーがあったら、そこを研究してみてください。バックナンバーなどもチェックしていくと、そろえるべき情報や、興味を持ってもらえそうなユニーク性が見えてきます。

新聞や主要メディアは毎日読む
栃尾

記者の方に指名で企画を持っていくとして、どのように連絡をするのですか?

小西

今ならSNSで連絡が取れる方もいますね。TwitterやFacebookからDMでコンタクトすることもあります。また、今の時代なら逆に電話でアプローチするPRマンが減っているので、むしろいきなり電話しちゃうのも効果的なんじゃないかと思っているんです。

栃尾

電話って、かけるほうはハードルが高い気がします。

小西

だから狙い目なんです。Webの記事などは署名入りのことが多いので、編集部の代表に電話をして記者さんを呼んでいただいてもいいと思いますよ。

栃尾

結構つないでいただけるものですか?

小西

もちろん、お忙しくてそっけない対応のこともあります。心がくじけてしまうこともありますね(笑)。電話が苦手な方は、コネクションのある人を探すのもひとつです。

栃尾

最初は大変でも、続けていくと人脈や信頼がつながっていくのでしょうね。

小西

信用で続けているところがありますから、扱う商品も慎重に選びます。例えば、せっかくメディアで紹介していただいても、サーバーがダウンしたり、すぐにサービスが終了してしまったり、1年以内などの短期間で倒産してしまったりすると、メディアとしても読者の信頼を失ってしまうから。

栃尾

そこまで気を遣うのですね。

小西

実は、PRはリスクが大きいのです。タイミングを間違えて準備が整っていないのに、いきなりマスに広まってしまうことがデメリットになることもあります。ちょうどよいタイミングで適した施策を打ち、リスクを避けるといった何手か先を読む戦術眼も必要なスキルなんです。

メディアの大ファンになることが、メディアに取り上げてもらう近道だと小西さんは言う。適したタイミングで適したターゲットに施策を打ち、効果的に広めていく。小西さんが提唱する「ストーリー」は、言葉にするとひとことだが、その基盤となる考え方はとても緻密。もっと詳しく知りたい人は、ぜひ小西さんの著書を参考にしてもらいたい。

アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割
小西みさを(著)

小西みさをさん
ソフトバンクやセガなど大手企業で10年以上の広報経験を経て2003年にアマゾンの広報責任者に就任。「Amazon.co.jp」の黎明期から急成長した13年間の広報活動の中で、さまざまなPR手法およびメディアネットワークを活用しアマゾンをブランディング。2017年にPR戦略やPR活動のサポート、PRコンサルティングを行う会社、A Story(エーストーリー)合同会社を設立し代表に就任。著書に『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』(宝島社)がある。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも