広報が語るべきは、心をつかむストーリー

第3回 ストーリー作りに必要なものは「強み探し」

アマゾンジャパンで広報のリーダーとして活躍していた小西みさをさん。前回のインタビューでは、ターゲットに合わせてアプローチすることの大切さを伺った。第3回目は、ストーリーの価値と、作り方のコツを聞いていく。

ストーリーがあると記憶に残る
栃尾

小西さんは、ご著書でも「ストーリー」の大切さを説いてらっしゃいますね。

小西

データや数字を聞いても、心に残らないんですよね。たとえば、「このファッションサイトには100万ものアイテムがあります」と言われてもイメージできません。

栃尾

確かに、魅力的な気はしませんね。

小西

例えば、靴を製造しているメーカーさんがいたとします。製造・販売するだけでなく、販売後時間が経ったあとも靴が傷んだときに安く修理してくれるサービスがあるとします。ベテランの靴職人が、また何年もはけるようにメンテナンスしてくれるという強みがあるとすると、それがひとつのストーリーになり得るんです。

栃尾

そういうこともストーリーなんですね。数字に比べて記憶に残りますね。

小西

そうですよね。「あそこの靴屋100足ぐらい置いているらしいよ」と言われるよりも「あそこの靴屋、靴が傷んだら何度でも安く直してくれるよ」と言われた方が、自分ごととして覚えていられますよね。人の記憶に残るエッジな部分を徹底的に探して、心を打つようにストーリーにラッピングしてあげて外に向かって見せていくんです。

『シンデレラ』と呼ばれていた女性をメディアに紹介する
栃尾

印象に残っている施策はありますか?

小西

書籍でも書きましたが、さまざまなスペシャリストにストーリーを語ってもらおうと努めました。そんな中「アマゾン社内に『シンデレラ』と呼ばれている女性がいる」という話を耳にしたんです。

栃尾

「シンデレラ」と言われたら、気になりますね!

小西

そのシンデレラは、アマゾンのファッションビジネスが立ち上がった際、オンラインショップで靴を販売するにあたり、履き心地やサイズ感の見える化を担当していました。女性は特にサイズに敏感なんです。

栃尾

ヒールのあるパンプスが足に合わなかったら、靴ずれして地獄なんですよね……。

小西

そうですよね。女性にとって靴のサイズはとてもシビア。「シンデレラ」と呼ばれるその女性は、足のサイズや幅、ふくらはぎのサイズが「まさに日本人の平均サイズ」なんです。その女性が実際にすべての商品を試し履きして「足幅が狭い」「サイズがやや小さい」といった商品ごとの固有な特徴を精緻に入力していき、そのデータを商品ページで表示します。

栃尾

それは面白いですね!! 「シンデレラ」と命名した人もすごい。

小西

それを、Amazonが在庫している倉庫ツアーと組み合わせて女性誌などのメディアの方に紹介したんです。大型バスを1台貸し切り、メディアの方々を物流センターにお連れして、豊富なファッションアイテムを見ていただきながら品揃えの多さを強調し、最後の目玉として「シンデレラ」を紹介しました。その女性の名刺の肩書に「シンデレラ」と書いておく遊び心も付け足したりして。

栃尾

それはもう、心に残ります! メディアでも紹介したくなるでしょうね。

ストーリー作りのコツは「強み探し」
栃尾

出来上がったストーリーとして聴けば「面白い!」と思えるのですが、ゼロから作るときにはどうすればいいのでしょうか。

小西

ともかく「自らを知る」ことが大切なんです。まずは目を皿のようにして、社内リソースをとことん調べるところからでしょうね。あらゆる部署の人と接触し、社内ネットワークを作って情報が集まるようにしたり、自分で社内取材したりして、情報を獲得していきます。つまり「強み探し」なんです。

栃尾

「強み」というネタを探していくんですね。

小西

そうですね。ただ、事業に関係のあるように見せることが必要です。例えば、アマゾンの社員にオペラ歌手の方がいたのですが、その時はPRにはつながらなかったですね……。

栃尾

​ なるほど。ただ珍しいだけではダメなんですね。

小西

加えて大切なのは、ミッションやビジネスモデルから逆算していくこと。事業部門は達成すべきゴールを作るわけですが、広報・PRは間接部門なので事業部門のビジネスゴールに紐づけて戦略や戦術を組み立てます。ビジネスゴールに関連していないと、いくら話題になってもゴールに効くPRとは言えない場合が多いのです。

栃尾

​ 逆算するというのは、具体的にどういうことなのでしょうか。

小西

例えばアマゾンなら、総合オンラインショップサイトとして「品揃え」「利便性」「低価格」の3つのバリューを、イノベーションをベースに強化して提供している会社でした。広報としては、それをお客様にも広く認知していただくことがゴール。だからこそ、メディアの方を倉庫にお連れして、品ぞろえの豊富さや、その日や翌日に届く仕組みをお見せするというやり方をしたのです。

栃尾

​ 「ゴール」を達成するためにさまざまな切り口での「強み探し」や見せ方の工夫が必要、ということですね。

ストーリー作りは、強みを探すところから。その強みのなかで、事業のゴールにマッチするものを魅力的に見せていく。そのためには、情報を集めるための取材やコネクションが社内に必要なのだ。最終回となる第4回は、メディアのアプローチの仕方について。小西さんならではの「こだわり」を教えていただく。

アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割
小西みさを(著)

小西みさをさん
ソフトバンクやセガなど大手企業で10年以上の広報経験を経て2003年にアマゾンの広報責任者に就任。「Amazon.co.jp」の黎明期から急成長した13年間の広報活動の中で、さまざまなPR手法およびメディアネットワークを活用しアマゾンをブランディング。2017年にPR戦略やPR活動のサポート、PRコンサルティングを行う会社、A Story(エーストーリー)合同会社を設立し代表に就任。著書に『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』(宝島社)がある。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも