SNSで5億売った男の流儀

第2回 相手を想う発信で「いいね」を「欲しい」に変えていく

SNSのフォロワーが多ければ必ずしも売り上げにつながるというわけではない。「いいね」を押すマインドと、「欲しい」というマインドが異なることは、自分に置き換えても明確だ。「短パン社長」としてブランディングしているアパレルブランド社長の奥ノ谷圭祐さんはなぜ「欲しい」を獲得できるのか。その秘訣を伺った。

ミーハーなだけの人は購買につながらない
栃尾

奥ノ谷さんのブランドはSNS発信だけで他のプロモーションはせずに売上を伸ばしているとお伺いしました。

奥ノ谷

僕の名前を冠したKeisuke Okunoyaは、在庫を持たず、僕のSNS発信だけで販売しています。5年経ちましたが、トータルの売り上げが5億円を超えました。

栃尾

SNSだけで5億ですか。それは、すごい。「いいね」を押すだけの人は多いと思いますが、購入する人の違いはどんなところだと思いますか。

奥ノ谷

基本的に世の中の人ってミーハーですよね。僕も含めて。「いいね」を押すだけで買わない人は、ミーハー的な気持ちで僕を見ているんだと思う。先日、ゆうこすさんの『共感SNS』という本が出ましたよね。誤解を恐れずに言うと、僕が普段から言っていることと同じことが書かれていた。でも、僕のフォロワーさんが『共感SNS』に書かれていることをこぞって絶賛していたんです。「僕は前から言っているのに、僕の発信が伝わっていないんだな」って思いました。

スピリットをわかっている人を大切に
栃尾

つまり、奥ノ谷さんの根底にあるスピリットがわかっていない、という感じですか?

奥ノ谷

そうそう。そういう人がミーハーなんだと思う。余談になりますが、僕が本を出そうとした理由のひとつがそれです(笑)。タイミングよく、オファーをいただいたので。
それと、スピリットをわかってくれていても、単純に買うお金がない人もいます。お金に限らずですが、なんとなく流されていたり、無理をしていそうな人には「買っちゃダメ」って言いますよ。そんなに安いものではないしね。例えば、「奥さんにはちゃんと許可もらってるの?」「今回は貴方にフィットするサイズがないから買わない方がいいよ」とかね。相手によって、センシティブな内容であればDMで聞いたりします。

栃尾

その方が誠実だと思います。「売れればいい」という姿勢じゃないのがわかりますね。

奥ノ谷

でもね、DMじゃなくてみんなが見れるリプライで書くから、「せっかく買おうとしている人にひどいことを言う」ってクレームが来たこともあるんです。だけど、相手のことを考えているかどうか、しっかりSNSを見てくれればわかるはずですよ。僕はこういうやり方で、ちゃんと伝わると思っています。

商売なんだから、下心は持っているべし
栃尾

「面白いだけの投稿では売れない」「売り込みの投稿だけでは人が離れる」といった課題を持っている人は多いと思います。奥ノ谷さんはその狭間をどうとらえていますか?

奥ノ谷

もちろん、共感してもらうのはとても大事だけど、自分のビジネスを繁栄させなくてはなりません。売上を伸ばしたいという下心は悪いことじゃないし、むしろ持っていなくちゃいけないと思います。
単に売り込んでやろうとしているだけの投稿との違いは、僕のブランドが誰かに必要とされてその希望に応えるカタチでスタートしたから、という特徴がありますよね。

栃尾

ニーズが先にあったんですか?

奥ノ谷

5年ほど前に、毎朝その日の全身コーディネートをSNSにアップし始めたんです。中には「毎日うざい」と書かれることもあったけど(笑)。あるとき「その短パン、欲しいです」と言われ、募ってみたら7-8人が「買いたい!」という。「どうせ“買う買う詐欺”だろう」と疑いながらも、そこまで欲しい人がいるなら騙されるのも覚悟の上で作ってみようと思った。発売してみたら、すぐに120枚売れたんですよね。びっくりしました。それまでは「どこで買ったの?」と聞かれたら一緒に買いに行っていましたが、「自分が着たいものを作って販売すれば人のためになる」と気が付いたんですよね。目からポロっと鱗が落ちたのを覚えています。

栃尾

奥ノ谷さんの好きな服を作って売ることが、お客様のためになっているんですね。そう信じることが大切なのだと感じました。

奥ノ谷

僕は純粋に人の役に立ちたくて作っているからね。先に商品開発をしてマーケティング手法をこねくり回しながら「役に立たせよう」とか、役に立つフリをしてるのとスタートが違うんです。ここすごい大事(笑)!

「商品を買ってもらうことがその人のためになる」と信じて発信をすることが、人を動かすことにつながる。さらには、その人のためにならない購買は止めることもあるという。それこそが、長い目で見て「購買に繋がるファン」を育てることになるのだ。次回は、今でも顧客に手書きのメッセージを書くという奥ノ谷さんに、顧客との接し方を聞いていく。

「いいね」を購入につなげる 短パン社長の稼ぎ方
奥ノ谷 圭祐 (著)

奥ノ谷圭祐さん
株式会社ピーアイ代表取締役社長。通称「短パン社長」。洋服に限らず、カレー、コーヒー、米、ビールも販売。短パンビール部といったコミュニティも作る。ブランド「Keisuke Okunoya」はSNSのみの販売で5億超え。ブログは毎日欠かさず書き続け間もなく10年。5月には短パンフェスを開催。12月に初の著書『「いいね」を購入につなげる短パン社長の稼ぎ方』を出版!

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも