YouTubeはアナリティクスで劇変する

第3回 効果的に運営するためのPDCAの回し方

YouTubeをスタートして、うまくいかないからとすぐに撤退するのはもったいない。YouTubeには高機能な視聴分析ツール「YouTube Studio」が提供されており、データから視聴者のさまざまな心理が読み取れる。分析の際に見るべき数値を、『広報PR・マーケッターのためのYouTube動画SEO 最強の教科書』の著者である株式会社動画屋代表取締役の木村健人さんに伺った。

「インプレッション数」「クリック率」「視聴者維持率」を見よ
栃尾

YouTubeを効果的に運用するためには、分析して改善していくことだと聞いています。PDCAの回し方のコツはありますか。

木村

まずは、正しいデータ設定をしないと、いくら視聴データを分析しても意味がありません。コンテンツがいくらいいものでも、概要が空白だったり、タグやタイトルが適切でなかったりする場合ですね。

栃尾

そういうことあるんですか? 分析以前の問題ってことですよね。

木村

意外とあるんですよ。芸能人を使ってしっかりCM動画を作ったのに、ただアップするだけで概要文が記載されていないようなケース。

栃尾

それはもったいないですね……。それらを整備したとして、次には何を見て行けばいいのでしょうか?

木村

「インプレッション数」「クリック率(クリック数/インプレッション数)」「視聴者維持率」の3つに注目することです。

栃尾

具体的ですね! それぞれ教えてもらえますか。

木村

「インプレッション数」は、サムネイルが表示された数です。YouTube検索や、関連動画、トップページなどのさまざまな場所にサムネイル表示されますが、もしインプレッション数が少ない場合にはニーズがない、競合が多すぎる、といった理由が考えられます。

栃尾

そもそも表示されないと見られないのに、表示自体がされないということですね。次の「クリック率」は……?

木村

表示されているのにクリックされないのも問題です。その場合は、サムネイルやタイトルに問題がありそうだとわかります。

栃尾

サムネイルが重要だとよく聞きます! 確かに表示された動画を見るか判断するのはたいていサムネイルですね。最後の「視聴者維持率」はいかがですか。

木村

ユーザーの「見たい」というニーズにマッチしていれば、再生維持率は高いはずです。でも、あまりに低いなら、サムネイルやタイトルであおりすぎていたり、ターゲットではない人がクリックしている可能性がありますね。

トラフィックによって分析の見方を変える
栃尾

木村さんの話を聞いていると、データから、ユーザーの気持ちまでわかってくるようです。まずは先ほどの3つを押さえることが最重要ポイントなんですね。

木村

もう一つ大切なのは、YouTube内のトラフィックです。「どのタッチポイントから訪れたのか」ということ。例えば、「YouTube検索」「関連動画」「トップ画面」によって、ユーザーのニーズは異なります。

栃尾

YouTubeの検索窓にキーワードを入れた人は、見たい動画がかなり定まっている人ですよね。

木村

そう! だから、YouTube検索からクリックしてくれたのに視聴者維持率が低かったら大問題なんです! 視聴者維持率は時間ごとにも見られるので、どこで離脱されたのか調べて改善していくといいでしょう。

栃尾

逆に、「関連動画」や「トップ画面」から来た人は、それほど強いニーズがないということですよね。

木村

関連動画からクリックした人は、それなりに関心があり、トップ動画からの人は「なんとなく見ようかな」という程度。視聴回数だけで見るのではなく、トラフィックによる「興味の濃度」の違いを加味してください。

他の動画の「関連動画」に出るまで数か月かかる
木村

注意していただきたいのは、当然ですが公開直後にはすぐにデータが取れないこと。1か月目に取れるデータは、トラフィック数とクリック数くらい。もしクリック率が低ければ、サムネイルを変えてアップロードしなおした方がいいです。

栃尾

なるほど、公開後1か月ぐらいだと、まだ細かい分析はできないのですね。どうしてですか?

木村

YouTubeのアルゴリズム的に評価対象となるには、公開後しばらく時間がかかるんです。ですから、2~4か月くらいまでは1か月目と同じような微調整を続けて、5~6か月目にようやくアルゴリズムが効いて関連動画に表示されるようになってきます。視聴回数が増えていくまで結構時間がかかります。ですから、商品ローンチのタイミングで盛り上がりの山を作っていくものや、公開直後にバズを作りたいといった即時プロモーションには向かないんです。どちらかというと、ユーザーとじっくりとコミュニケーションを取るような継続的コンテンツの方が向いていますね。

栃尾

時間がかかることを知らないと、最初は苦しそうですね。

木村

企業の方は目的が明確なことが多いので、すぐに人気が出ないと焦ってパニックになることがあります。例えば、著名なタレントを演者として使ってるのに「視聴数が全然伸びない。何とかしてください!」という駆け込み依頼が多い。でも、落ち着いてデータを分析して伸びない理由を洗い出すことが大事です。

適切な数字を見ることで、改善すべきポイントが見えてくる。例えば「クリック率」が悪ければ、サムネイルを直した方がいい、といったこと。適切に分析してチューニングしていけば、チャンネルの評価が上がり、より見られやすくなるという好循環が生まれるはずだ。最終回となる次回は、YouTubeでファンとコミュニケーションするための工夫を聞く。

木村健人さん
1988年生まれ。広島県福山市出身。サンフランシスコ州立大学芸術学部卒。ゲーム制作会社、IT関連会社を経て、動画SEOの黎明期の2016年にYouTube動画SEOサービスを開始。メーカーを中心に企業公式YouTubeチャンネルを手掛け、視聴回数を大幅に改善させる。著書に『広報PR・マーケッターのための YouTube動画SEO最強の教科書』(秀和システム)がある。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも