YouTubeをスタートしたい企業は増えている。体制やターゲットに沿ったコンテンツの作り方、企画の立て方など、決めなくてはならないことは盛りだくさん。担当者が最低限押さえておくべきことを、『広報PR・マーケッターのためのYouTube動画SEO 最強の教科書』の著者、株式会社動画屋代表取締役の木村健人さんに聞いた。
動画の構成要素を4つに分けて考える
コンテンツ作りにターゲット設定は欠かせません。やはり特定のターゲットに向けたものを作ることが大事なのでしょうか。
僕がおすすめしているのは、ターゲットを「必要性」と「欲求度」の2軸で分けて、それぞれに合わせたコンテンツを用意することです。例えば、歯みがき粉のブランドでYouTubeチャンネルを作るとして考えた場合、以下のように分けます。
(1)「必要性」高×「欲求度」高
商品が必要で、欲しいとも思っている層向け。響くコンテンツとしては使用方法が代表的。例えば、「正しい歯の磨き方」や「歯磨き粉の適切な量とは」など。
(2)「必要性」高×「欲求度」低
商品は必要だけど、欲しいほどではない層。まだ決め手に欠ける人たち向け。訴求すべき内容は、スペック中心。例えば、「《商品成分》とは」「研究者の声」など。
(3)「必要性」低×「欲求度」高
商品は欲しいと思っているが、それほど必要でない層。主に予防や習慣について訴求していく。例えば、「歯の黄ばみの原因&予防」「黄ばみを落とす10の習慣」など。
(4)「必要性」低×「欲求度」低
商品は要らない、欲しいとも思っていない層。「潜在層」でもあり、この層が最も多い。アプローチとしては興味へのきっかけを作ること。例えば、歯のトリビアとして「親知らずの虫歯」「歯磨き粉の研磨剤」など。
縦軸に必要性、横軸に欲求度の4象限マップで考えるんですね。
そうですね。(1)~(3)は比較的狙いやすいのですが、(4)の潜在層に見てもらうのはなかなか大変です。「よく検索されているのにコンテンツが少ない」というキーワードを発見できれば、そこをピンポイントで狙うのがベスト。例えば、歯磨き粉のケースでは、意外にも「親知らず」が狙い目でした。メガクラスタに効くビッグワードを追い求めても見つけられないことが多い。狙いどころは、マイクロクラスタにズバッと刺さるインサイトをたくさん発見することなのです。
時間は長い方が有利。更新頻度はそれほど重要ではない
Webサイトの場合は更新頻度が高いほどいい、と言われることもありますが、YouTubeはどうなのですか。
もちろん多いに越したことはないのですが、それほど気にしなくていいと思います。企業さんの場合は、月に3~5本を公開するのが現実的ではないでしょうか。どちらかというと、本数より、「ユーザーに伝えたいことが入っているか」を気にした方がいい。
そういう目安はありがたいですね。また、細かいことなのですが、動画の長さってどれくらいがいいのですか? 動画広告は6秒のバンパー広告など、短尺化の流れがあると思いますが、コンテンツの場合はどうなのでしょうか。
コンテンツ動画も短尺化の流れはあるんですが、実は長めの方がいい。これはYouTubeのアルゴリズム(※)から、そう言い切れるんです。アルゴリズムが良い動画を評価する際には、「インプレッションに対する期待視聴時間数」を大事にしています。つまり、1クリックで長い時間見られた方が有利。1本5分の動画なら、どんなに面白くても5分以上の再生時間にはならないので。
※2020年4月時点のアルゴリズム
なるほど。「最後まで離脱しない」が大事なわけではないんですね?
もちろん複合的に判断しているとは思います。1時間の動画が10分みられるのと、10分の動画を最後まで見られるのでは、また違った判断にはなります。「視聴者維持率」が変わるからですね。とはいえ、必要以上に短くする必要はない。How-toもので5~6分、講義や説明だと10~15分というところではないでしょうか。
関連する人が多いとスピードが遅くなる
YouTubeをいざ始めようと考えたとき、「体制」で注意すべきことはありますか。
社内で制作する場合と、プロに外注する場合がありますが、大手企業は外注することが多いですね。どちらでもよいと思いますが、ワークフローと決裁者を明確にすることが大事です。
そうですよね……。Webの記事を制作するときにも同じですが、決裁者が少ない方がスムーズ。
とはいえ、会社として世の中に向けて情報発信することなるので、大手になるほど承認プロセスが増えます。修正回数が増えたり、制作期間が長くなったりと、スピードが落ちてしまいますね。
決裁者がひとりの方がいいですか。
その方が進めやすいことは確かですが、その決裁者の方がYouTubeというプラットフォームの特性をしっかり理解していることが大事になってきます。「どういう動画を出せばいいかわからない」という状態では、ブランドイメージを守ることばかりが先行し、視聴者にまったく響かない広告色が強い動画になりがちです。保守視点の修正が増えるので制作もずるずる長引いてしまいます。
これまでに経験がないから、判断のポイントがあいまいなんでしょうね。
担当者がYouTubeの「こんなもん」を理解することが大事
決裁者や担当者が、「どういう動画を出せばいいかわかる」ためには、やはりYouTube動画をたくさん見た方がいいのでしょうか。
やみくもに見るより、ユーザーローカル社が出しているYouTubeランキングを参考に見ていくといいかもしれません。「企業公式チャンネル」のランキングもありますよ。
企業のチャンネルでランキングがあるのはいいですね。参考にすべきチャンネルはありますか?
僕がとても優れていると思うのは海外女性誌が運営する「Vogue」と、「Nintendo」の公式チャンネルの2つ。例えばVogueチャンネルの人気コンテンツに、モデルさんがカメラに向かって自分でメイクをするという企画がある。すっぴん状態から完成までの一部始終をみせるので、憧れのモデルのメイク方法が全部わかっちゃうんです。日本の化粧品メーカーもやればいいのにって思います。
そうですね。そうしたらすごく見たいですね。Nintendoはどんなチャンネルなんですか?
お笑い芸人のよゐこがゲームをして楽しむ動画や、開発者が話すもの、ゲームのライブイベントなどがあります。YouTube的な「くだけ感」や「尺」などがつかめてくると思いますよ。著名人を使わずに制作しているチャンネルで参考になるのは、タカラトミー社やアスキー社。社員の方が出演するコンテンツなので参考になります。
YouTubeをスタートする際に決めることはたくさんある。商品に対する「必要性」「欲求度」でユーザーを分け、コンテンツの企画を立てると効果的。また、決裁権のある人や担当者がYouTubeを見慣れておくことが大事だ。次回は、スタートした後のPDCAの回し方を聞く。YouTube成功のためには分析して改善していくことが不可欠だ。
木村健人さん
1988年生まれ。広島県福山市出身。サンフランシスコ州立大学芸術学部卒。ゲーム制作会社、IT関連会社を経て、動画SEOの黎明期の2016年にYouTube動画SEOサービスを開始。メーカーを中心に企業公式YouTubeチャンネルを手掛け、視聴回数を大幅に改善させる。著書に『広報PR・マーケッターのための YouTube動画SEO最強の教科書』(秀和システム)がある。
栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも