未経験から大ヒット! 成功者が教えるPRのコツ

第1回 隣の売り場はすぐに売れていく……!認知の力を思い知った原体験

マットレスのエアウィーヴをゼロからPRして大ヒットさせることに成功し、現在はPR塾とPR代行の会社LITAを経営されている笹木郁乃さん。PR塾は、すぐ実行できる情報が多く、結果が出ると評判になり、その内容をもとに『0円PR』を上梓した。1回目のインタビューは、笹木さんがPR力を注ぐことになった原体験を伺った。

首席で卒業したのに、開発部門で力を発揮できず……
栃尾

寝具のエアウィーヴや、ホーロー鍋のバーミキュラを大ヒットさせた笹木さんですが、もともとはメーカーのエンジニアだったんですよね?

笹木

そうなんです。トヨタ系の自動車部品メーカー。大学では工学部の機械システムを先行していて、大学では何か結果を出したいと、頑張って首席で卒業しました。それでメーカーに入ったのに、研究開発ではまったく力を発揮できなくて……。

栃尾

あまり向いていなかったのでしょうか……?

笹木

考えてみたら、周囲は車が好きで、発想するのが得意で……という人ばかり。私はどちらにも興味がないし、成果も出ない。3年目くらいには、うつなんじゃないかと思ったほどでした。でも病院に行くと「うつじゃない」という診断で。本当はうつと言われて休みたかったのに。

栃尾

それは苦しいですね……。

笹木

それで、自分がどういうときに生き生きするのかを立ち止まって考えてみたんです。そうしたら、「明確な目標があるとき」なんだとわかった。小さな会社の営業など、自分の頑張りがダイレクトに数字的な成果として実感しやすい環境が向いているんじゃないかと思うようになりました。そこで、思いきって「理系」という肩書を捨てようと決意したんです。

栃尾

私も理系でエンジニア出身ですが、積み重ねてきたものを捨てるのは勇気がいりますよね。

笹木

でもそれで道が開けたんです。転職活動をスタートして出会ったのがエアウィーヴの社長。面接でマットレスへの想いを熱く語られ「一緒に日本一の寝具メーカーに育てよう」と言われたことに衝撃が走ったんです。

「現場でいくら頑張っても売れない」原体験がPRへの情熱に!
栃尾

その情熱にほだされて、エアウィーヴへ入社を決めたのですね。

笹木

そうですね。社長と二人三脚で営業やマーケなどを全部やるということでした。最初は東急ハンズの渋谷店の店頭に立って、売り子なんかもやったんです。ともかく、人がいないから怒涛のように何でもやらざるをえないといった感じでした。

栃尾

売り場は、顧客の反応などがダイレクトに分かったのではないですか。

笹木

そうです、悪い意味で……。私は声を張り上げて頑張っているのに、1日にひとつ売れれればいいほう。ところが、隣のテンピュールブランドの商品は売り子さんがいない日でも、「テレビで見ました」「雑誌で見ました」と、どんどん売れていくんです! 横目で見てて無性に悔しかった。

栃尾

それは悲しいですね。でも自分が客としてお店に行っても、そう思う気がします。

笹木

有名と無名の違いを肌で感じた瞬間でした。だから、まずは有名にしなきゃダメだ! と強く思ったんです。

栃尾

そういう体験こそがその後の熱意の源になってくれるんでしょうね。

笹木

そう! そうかもしれません! まず手始めとして最初にやったのは、広告です。健康への意識が高そうな雑誌に広告を出したのですが、ノーリアクション。まったくダメでした。名もないブランドが広告を出しても、7万円のマットレスは売れないんですね。

「広告ではなく、PRというものがあるらしい!」
笹木

そこで、社長が「PRというものがあるらしい!」という情報を得てきたんです。

栃尾

そこからですか!? ある意味すごい。

笹木

ブランドやマーケティングの専門家の方に週2回来てもらい、直接教えてもらいました。

栃尾

それでどんな施策をしていったのですか?

笹木

慣れない電話をして、なんとかアポイントを取り、メディアに会いに行きました。人脈がゼロだったので、ひたすらいろいろなメディアに電話をして、慣れないプレゼンをして……。そうしたら、雑誌から少しずつ紹介されるようになっていったんです。初めてテレビに出たのが地元愛知県の番組で、5分くらい。そうしたら、終わった直後から電話が鳴りやまなくなったんです。

栃尾

それはすごいですね!

笹木

それまで、カスタマーセンターや工場が暇で、担当者は草むしりをしていたくらいだったのに……。いきなり忙しくなって、みんなが生き生きとし始めたんですよね。そこで気がついたんです。PRって、会社を活気づけ、社員の生活まで変えて前向きにするものなんだって思ったんです。

栃尾

その後も順調に伸びていったんですか?

笹木

メディアの力を体感して、もう頑張るしかないと心を決めました。メディアに電話をしたり営業したりしていくと、少しずつ紹介されて結果に結びつくとわかる。最初は実績を作るために、著名な方に無償提供をしたりして……。

栃尾

オリンピック選手も気に入ってくださったんでしたっけ。

笹木

そう! 海外遠征にも運んでくださっていたので、自社でカメラマンを手配して空港で証拠写真を撮ったんです。出待ち感覚で、ほとんどババラッチ状態(笑)。その写真をメディアにお見せしたら、報道ネタとして使ってくれました。

栃尾

原体験が強いから、実行や成果に結びついているのでしょうね。

笹木

それはあると思います。特に思いの強さは重要です。現在、PR塾でたくさんの人に教えていますが、「この商品を売るのは難しい」と言う人より、「絶対に有名にしたい! 有名にならないはずがない!」と思っている人の方が、圧倒的に成果が出るんですよ。

たくさんの失敗や努力ののちに、大きな成果を手にしてきた笹木さん。「PRは会社を変えられる」と信じる力が、そのパワーとなっているのだろう。次回は、PRマン必見ともいえる、メディアに掲載されやすいトークの極意を教えてもらう。

笹木郁乃さん
会社員時代、創業期2社のPRを担当。株式会社エアウィーヴ 5年で1億→115億に貢献。愛知トビー株式会社(バーミキュラ製造販売)1年関わり、12ヶ月待ちの注文殺到に。その後、PR代行事業を立ち上げる。また、自身の10年間のPR経験より構築した独自のPR理論をコンテンツとするPR塾を主宰。延べ330人以上の起業家、経営者、PR担当者にPRを指導、14期連続満席にて開催。著書に『0円PR』(日経BP社)。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも