ファンコミュニティ成功の秘訣

第3回 ファンコミュニティをマネタイズするための考え方

ここ最近、ファンコミュニティが注目されている。ただし、「マネタイズしづらい」と敬遠する声も聞く。お金とファンコミュニティの関係性を、オシロ株式会社の代表取締役 杉山博一さんに伺った。

「マネタイズしづらい」って本当?
栃尾

コミュニティだけではマネタイズしづらいというイメージがありますが、いかがでしょうか。

杉山

前回言った通り、コミュニティを活性化することで本業にシナジーが生まれるのが理想の姿だと思っています。なので、コミュニティの売上だけを見ない方がいいでしょう。ただ、西野亮廣(キングコング)さんのところでは、会費が月額1,000円で数万人の会員がいらっしゃる。それだけでも収益が成り立っているともいえます。

栃尾

ただ、西野さんの場合は特殊なんでしょうか?

杉山

そこまで大きな規模は珍しいですが、マネタイズできるコミュニティはそれほど珍しいわけではありません。月額会費1万円のコミュニティで300人、400人の会員が集まり、ひとりのクリエイターが年間数千万円の売上を作れる。そういった事業も増えていますよ。

栃尾

最近ではどんな事例があるのでしょうか?

杉山

例えば、新型コロナウイルスの影響で、仕事が減ってしまったトップクリエイターの方たちがいます。雑誌が休刊したり、イベントも減って、活躍の機会も減る。そういった方がコミュニティを立ち上げるケースもあります。

栃尾

これまでの既存のプラットフォームに依存しなくても収益が見込めるんですね。

杉山

その業界のトップを走ってきた方々が、共通の価値観でのサブスクコミュニティを持つことで、エンドユーザーから直接課金できる事業が持てる。これからこのインディペンデント化の流れは加速していくと思います。

栃尾

企業のブランドなどで、最近の動きはありますか?

杉山

僕たちがお手伝いしているなかでは、あるブランドがサブスクコミュニティを立ち上げようとしています。数千人のコミュニティになる見込みです。コミュニティの売上を1とした時にコミュニティのコストを1以下、持ち出しにならない設計にしておき、その先のメインの事業で100を作り出せるよう目指しています。

栃尾

企業ブランドで大成功した、というところはまだあまりないのでしょうか?

杉山

新しい動きなので、大きな成功事例はこれからだと思います。たとえば、メディアが、サブスク・オンライン・コミュニティという場を新たな収益として活用し始めている事例はあります。コミュニティの雰囲気を壊さずに、広告収入を得るということを模索しています。みんなで新商品をワイワイ試したり、新しい形が生まれてきています。いずれにしても、単に会費による売上をKPIにして短期的な戦略に出ると失敗することが多いので、1~3年くらいの中期的に見てもらった方がいいですね。

コミュニティ運営にかかる人件費は?
栃尾

マネタイズを考える際、会費による売上だけでなく、運営の人件費が大きなファクターになると思います。

杉山

そうなんです。コミュニティをスタートさせるときに、最初に必ず議題に出ます。コミュニティを簡単なものだと考えていると運営にリソースを割けません。むしろひとつの新規事業を立ち上げると考えて、ひとりかふたりは専任を立ててもらった方がいいと思います。

栃尾

なるほど、それはリソースの指針になりますね。

杉山

コミュニティマネージャーをするためには、免許などが必要なわけではありません。やりながらスキルを付けるという意味で、僕たちOSIROのシステムを使ってもらう前提であれば、事務方の人がいればスタートできる、と言っています。その場合には経験よりも「やりたい」というモチベーションの方が大事だと思っています。

栃尾

モチベーションが高い方がいいのですね。

杉山

ただ、何でも高ければいいというものでもありません。最初の熱量が高すぎるのも問題です。特に、オーナーになる方の多くはコミュニティ運営が本業ではありません。最初は熱量が高く時間をかけていても、あとから下がってしまうと問題です。

栃尾

会員の人から見たら「最近手を抜いている」みたいに見えてしまいそうですね。

杉山

最初の期待が大きいだけに、その反動で反発や逆恨みにつながることもあります。オーナーの人はサービス精神もほどほどにして、「やる/やらない」の線引きをした方がいいでしょうね。

栃尾

最初からある程度、かける時間を決めておくといいのでしょうか。

杉山

そうですね。あとは、入会前と入会後のギャップをできるだけ減らすことも大切。最初に「こういう場所です」と説明会をするなど、期待値を上げすぎないことも必要なんです。ギャップが少なければ、退会率も減ります。

​会員が主体的に動くような仕掛けは?
栃尾

会員の方に動いてもらうのも活性化のコツだと思います。そのためにどのような仕掛けが考えられますか。

杉山

オシロのシステムにいろいろな機能を付けています。他のシステムでも、工夫することはできると思います。まずは「バディ機能」ですね。新規会員と、既存会員を1:1でマッチングします。クラスに転校生が入ってきたときに先生が「●●くん、○○さんの面倒をみてあげてね」とお願いするような感じです。

栃尾

メンターみたいな感じでしょうか。そういう機能があると安心ですね。

杉山

「興味関心」という機能もあります。同じ興味関心の人とつながれる仕組みで、自由に作ることができます。例えば「人見知り」という項目ができたことがあって、人見知りの人同士でオフ会をするといった試みもあったんですよ。

栃尾

おもしろいですね! 盛り上がったんでしょうか?

杉山

「人見知りだから挨拶しなくていい、そこにいるだけでいい」という趣旨だったのですが、結局ワイワイ盛り上がったようです。他に、入ってすぐに読んでほしい「ウェルカム記事」、入会してコメントのハードルを下げてくれるための「ウェルカムbot」などがあります。

栃尾

他のシステムを使っていたとしても、工夫できそうなものもありますね!

コミュニティは毎月の会費で売上が上がるが、人件費がそれ以上にかかってしまうと赤字になる。コミュニティマネージャーの稼働を設計しておくのも大切だ。さらに、会員が主体的に動くような仕掛けにより、コミュニティマネージャーの負担も減らせる。次回は、コミュニティの未来像について伺っていく。

杉山博一さん
元アーティスト&デザイナー。世界一周後、アーティスト活動開始、30才を機に終止符。ニュージーランドと東京の二拠点居住&外資系IT企業代表を経て、現在は、東京に定住し「日本を芸術文化大国にする」という志を持ち、「OSIRO」を開発。システムだけでなく、サポートも合わせて行い、2020年東洋経済誌「すごいベンチャー100」に選出される。https://osiro.it

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも