ファンコミュニティ成功の秘訣

第4回 今後のファンコミュニティは小さな経済圏になっていく

コミュニティのトレンドは次々に変化してきている。今後注目されるのはどのような形だろうか? オシロ株式会社 代表取締役の杉山博一さんに、コミュニティの未来像を聞いた。

これからコミュニティをスタートするなら?
栃尾

これからコミュニティをスタートするなら、どこから始めればいいのでしょうか?

杉山

まずはコミュニティ設計ですね。「どういう場所にするか」「どういうコンテンツをどのように出していくか」「オーナーがどんなことをするか」「コミュニティマネージャーのキャラクターをどうするか」といったことを検討する必要があります。

栃尾

いろいろなルールを定める感じでしょうか?

杉山

そうですね。例えば、仲良くなると個別にダイレクトメールで連絡を取ってしまうのですが、これをやり出すと1:1ではなく1:nなのでキリがなくなる。でも、コミュニティマネージャーに個別連絡をしないように、といったルールがあればオーバーワークになりすぎないですよね。

栃尾

さらに、オープンでの会話になれば透明性が高くなりますね。

杉山

ただ、決めすぎると余白がなくなるので、余白も踏まえて設計するといいと思います。以前にあった例では、コミュニティマネージャーがきっちりしたタイプながら非常に忙しくて、「ごめん、お願い!」といろいろな人に頼んでいった結果、頼りにされた人が活躍して、全体が活性化したケースもあります。

これからのコミュニティはインディペンデント系に
栃尾

これからスタートするなら、どんなコミュニティが熱いのですか。

杉山

個人の方が独立する方向で、偏愛と熱中、価値共創を軸にスタートするといいと思います。例えば、人気アイドルグループのAさんがコミュニティを始めます、と言ってもただのファンクラブですが、「◯◯が好き」など、ご本人の好きな物事と掛け合わせて偏愛性を高くするのがお勧めです。

栃尾

そこに当てはまらないファンの人は離れてしまいませんか?

杉山

狭めても成り立つくらいのファンの母数がいることが前提ですが、その場合はむしろ狭めた方がいい。好きなことだからオーナーもずっと熱量を変えずに続けていけますし、Aさんがグループを脱退しても食べていけます。好きなことをしているわけですから、「ファンサービス」みたいな意識にならなくてすみますしね。

栃尾

なるほど。ファンというより、ずっと一緒に活動できる仲間を集めるようなイメージですね。

杉山

もともと、作家やアーティスト、クリエイターがインディペンデントに食べていける世界を作りたくてオシロを立ち上げたので、そういう世界が広がってほしいと考えています。ファンの人たちと価値共創していける場所が増えれば、日本人の幸福度も上がっていくと思うんです。

ファンコミュニティは小さな経済圏に
栃尾

ファンコミュニティは、これからどのように発展していくと予想しますか?

杉山

仮想通貨サービスも増えてきています。それがもっと発展していくのではないでしょうか。例えば、ある作家さんのファンコミュニティがあるとして、コミュニティ内にデザイナーさんがいたとします。プライベートなことを相談したときに、お金ではなくそのコミュニティ内で有効なポイントで支払う。受け取ったデザイナーさんも、別のことでコミュニティ内の誰かに何かを依頼し、謝礼としてポイントを支払うことができます。

栃尾

お金に近い価値が生まれるんですね。

杉山

これは面白い実験があるんです。OSIROのあるコミュニティで、たまったポイントを人にあげて使い切る実験をした人がいた。そうしたら、翌日にはあげた以上にポイントが届いていたんです。それを繰り返していると、ポイントがどんどん増えていく。

栃尾

ため込むより、あげた方が増えるんですね!おもしろい。

コミュニティマネージャーが救世主
栃尾

これから、オシロさんとしてはどのような展開をしていきたいですか?

杉山

どんなコミュニティを立ち上げる時でも、コミュニティマネージャーが重要になっていきます。ただ、なかなか見つからないし、見つかっても力量が安定しません。コミュニティマネージャーの技量によって、盛り上がりや活性化が左右されてしまうんですね。

栃尾

これといって仕事が決まっているわけでもないので、難しいと思います。やりすぎもよくないですし。

杉山

そうなんです。コミュニティマネージャーをシステムでサポートできたらいいと思っています。例えるなら、地域に一人はいた「おせっかいなおばさま」ですね。「あの人なら○○が得意だよ」とつなげてくれる人。ときどき、ぬか床をかき混ぜて発酵を促すような役割ですね。

栃尾

なるほど、それでコミュニティマネージャーの負担が少なくしたり、力量の差を埋めるんですね。

杉山

成功確率が上がり、コミュニティマネージャーの不安も解消されると考えています。

栃尾

それによって成功するコミュニティが増えれば、日本中が豊かになっていくイメージが湧きますね。

サードプレイス(居場所)としてのコミュニティは、これからどんどん発展していくだろう。ビジネスの文脈でも、今後しばらく注目されるに違いない。ある程度の人数を集められる「偏愛」を旗に掲げられるなら、コミュニティを検討してみるとよさそうだ。また、現在コミュニティを運営している場合には、より活性化させる工夫を施していきたい。

杉山博一さん
元アーティスト&デザイナー。世界一周後、アーティスト活動開始、30才を機に終止符。ニュージーランドと東京の二拠点居住&外資系IT企業代表を経て、現在は、東京に定住し「日本を芸術文化大国にする」という志を持ち、「OSIRO」を開発。システムだけでなく、サポートも合わせて行い、2020年東洋経済誌「すごいベンチャー100」に選出される。https://osiro.it

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも