見込み客を育てるマーケティングオートメーション

第4回 目的を定めて、自社にフィットしたツール選びを

マーケティングオートメーションツールに興味を持ったり、いざ導入したいと思ったときに、注意すべきポイントはあるのだろうか。事前の準備や適正なツールの選び方など、マーケティングオートメーション製品「Marketo Engage」製品担当の虻川稜太さんにお伺いする。

既存の施策を分解していくと課題が見えやすい
栃尾

実際、自社にマーケティングオートメーション(MA)を導入しようと考えた際には、どのように進めていくとよいのでしょうか?

虻川

始め方に正解はないと思いますが、認知→検討→契約→優良顧客、といった「自社サービスの収益プロセス」を把握するのは最初のステップかと思います。また、現在すでに行っている施策がいくつかあるなかで、それらがどの段階の顧客に向けた打ち手なのかを把握するとよいですね。

栃尾

しっかりと決めていないケースがありそうですね。

虻川

例えば、認知促進としては、展示会、紙のDMなどいろいろな手法があると思いますが、漠然と手段優先で取り組んでいるケースは多い。ターゲットや目的が明確になれば、いまの打ち手のラインナップでは抜けている部分が見える場合もあります。

栃尾

そのあたりは、導入前に決めておいた方がいいのでしょうか?

虻川

そうですね。MAツールの導入費用としては、月額5000円の安価なものから、年間数百、数千万のものと規模はまちまちです。導入前にある程度、何をどこまでやるべきなのかという大方針が決まっていた方が、無駄にお金を払い続けなくてよいとは思います。

栃尾

自社でやるのはなかなか難しいと思うのですが、御社のようなサービスサプライヤーさんに相談して目的を決めていくという方法もあるでしょうか。

虻川

もちろんそうです。検討に1~2年かけるお客様もいらっしゃいます。やりたいことに適したサービスを選ばないと、オーバースペックで宝の持ち腐れになってしまったり、導入にかけた手間や時間が無駄になったりします。例えば、そもそも見込み客のリスト数が足りていないのに顧客の育成のことを考えても効果は出ないでしょう。たった10人の顧客をいくら上手に育成して成約率を5割まで引き上げても、成約数は5人です。それよりは、1000人の顧客リストを新たに獲得した方が、成約率が1割のままでも100人成約となりますよね。

栃尾

確かに……。その場合はMAツールを導入するのではなく、広告などで見込み客の獲得に注力する方が先ということでしょうか?

虻川

そういう考え方もありますし、一斉にすべてを改善していくという発想もあり得ます。ただ、一般的に結果が出やすいのは成約に近い部分の改善と言われています。顧客との接点はしっかりとれている企業さんは意外と多く、でも上手くナーチャリングができていないために成約件数が上がってこないというケースの方が多いからです。

成功させるためには、関係者のメリットを明確にする
栃尾

ありがちな失敗例をいくつか教えていただけますか?

虻川

例えば、MAツールのうちメールの配信機能しか使わないようだと、とてももったいないと思います。それなら、メール配信の専用ツールを使った方が安価で操作も簡単です。目的に対して操作が複雑だと、ほこりをかぶってしまうことになりかねません。

栃尾

機能を使いきれていないケースですね。

虻川

そもそも、MAを導入するということは、社内にMAツールを使いたい人がいるということです。でも、これはセクション横断型のソリューションなので、一部門で完結する話ではありません。MAを導入したいと旗を振られる方は、自部門だけではなく、他の部門にとってのメリットをしっかりと提示していくことが大切です。

栃尾

それぞれの担当者にメリットがないと動かしにくいでしょうね。

虻川

メリットを明確にするのはとても大事です。例えば、Marketo Engageでは顧客の行動に対してスコアリングする機能があります。「点数が一定以上の顧客にアプローチすれば成約率が10倍以上」といったメリットがもしあれば、営業部門も「もっとスコアリングの高い顧客の情報が欲しい」と積極的になりますよね。

栃尾

連載の2回目に教えていただいた、マーケティングと営業の連携ですね。

虻川

はい。そのためにも、最初から営業のことをわかっている人をMA導入プロジェクトのメンバーに入れるとうまくいく可能性が高まります。マーケターに比べると、顧客心理がわかっている営業マンの方がより優良顧客像をイメージしやすいと思います。

全体像の把握ができ、連携に強いのがMarketo Engageの特長
栃尾

最後に、MAツールであるMarketo Engageが他の製品に比べて優位なポイントがあれば教えていただけますか。

虻川

大きく3つあると思っています。ひとつめは、収益プロセス全体を可視化できる網羅性があること。ふたつめは、CRMツールや広告配信ツールなど、さまざまなツールと連携しやすいということ。3つめは、ユーザー同士のコミュニティが活発なことですね。

栃尾

ひとつずつ、詳しく教えていただけますか。

虻川

まず、全体像を数値で把握して、施策に落とし込んでいけるという特長があります。他社のツールだと、リードジェネレーションに特化していたり、メールマーケティングが得意、といった強弱がありますが、Marketo Engageは集客から成約、有料顧客化までの全体が見えるので、ボトルネックを改善していくプロセスを回しやすいのです。

栃尾

ふたつめは、さまざまなツールと連携できるところ。

虻川

例えば、もともと導入していたサービスで、ショートメッセージ(SMS)機能を使ってコミュニケーションをとっている、といったケースがあったとします。SMS機能と連携できないがゆえに、携帯電話の番号しかわかっていない顧客を落としてしまうのは惜しいですよね。既存システムと連携してデータを集められるのが特長です。

栃尾

3つめのユーザーコミュニティは、時代に合っていて魅力的ですね。。

虻川

2,000~3,000人集まっているマルケトのユーザーコミュニティがあります。そのコミュニティからスピンアウトして分科会を開催し、業界のことを相談している方もいます。ユーザーさん同士でうまく横のつながりを作っていただいて、細かい施策や知見を情報交換していただいています。業界特有のビジネスのことはサービスサプライヤーよりもユーザーさん同士の方が詳しいので、こういう場があることを皆さんとても喜んでいただいています。

MAツールは、製品によって強みは異なるものの、見込み客から成約までをスムーズに自動化してくれるツール。決して押し売りではなく、顧客の気落ちの変化や状況に合わせて適切な情報を適切なタイミングで提供をしていく。導入を検討の際には、まず自社の課題を明確にするところから始めてみてはいかがだろう。

虻川 稜太さん
アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングスペシャリスト
新卒で入社した精密機器メーカーで放送機器のプリセールス・営業に従事した後、2017年に当時の株式会社マルケトに入社。インサイドセールスとして年間200件以上の商談創出に貢献。現在はMarketo Engageを中心とした製品におけるデジタルマーケティングならびにフィールドマーケティングに従事。

栃尾江美
ストーリーと描写で想いを届ける「ストーリーエディター」。ライターとして雑誌やWeb、書籍、広告等で執筆。数年前より並行してポッドキャスターも